【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
無断転載・複写は絶対に禁止ですので、よろしくお願いします。
★エロし ★★いとエロし!
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午前中の授業が終わり、午後から受付に入るイルカは、てきぱきと教材を片付け、教室を後にする。その背中を追いかけてきた子供たちが呼び止めた。
「イルカ先生。今日はシラスはいないの?」
「ああ。シラスは今日はお休みなんだ」
「そうか~お休みか」
「ねぇ、その子猫も忍猫なんだよね?」
「そうだ。凄いんだぞ。この子猫は、立派な忍なんだ」
立派な忍びか。イルカにそう言われると、くすぐったい気持ちになる。
ピョコピョコと大きな耳を動かし、前足をフミフミ動かして、ゴロゴロと喉を鳴らすカカシを見て、子供たちは思わぬことを口にした。
「この子猫、シラスの子供でしょ」
は?シラスの子供。俺がか?
思わず目をまん丸にしたカカシの頭をイルカが優しく撫でる。
見上げると、イルカは苦笑していた。
「だって、同じ白い色してるし、目も色違いだし」
「絶対シラスの子供だ」
「あははは。シラスに似てるけど、残念。違うよ」
イルカはそう言って笑っていたけれど、カカシは大いに不満で、イルカのベストの中に潜り込んで、隠れてしまった。


午後の受付に入る前に、昼食を本部棟の食堂で取ることにしたイルカの胸元に収まったまま、カカシは大人しく辺りを見回していた。
どうやら見知った顔はいないようだ。
ほっと安心していると、定食のトレーをもったイルカがテーブル席に着く。
「カカシさんご飯ですよ」
イルカに優しく囁かれて、カカシはひょこっとイルカのベストから飛び出した。
イルカのトレーの前でちょこんと座る。
チラチラと時折視線を感じるのは、この可愛らしい外見のせいなのだろう。
カカシの姿は、大きな耳のふわふわした子猫が、定食の載ったトレーの前で、物欲しそうにしてるようにしか、見えなかった。
「今日のA定食は、鳥の竜田揚げですけど……カカシさん、竜田揚げ食べられます?」
「にゃぁ(揚げ物か)」
「う~ん、そうだ。衣取ってあげます。それなら大丈夫でしょ?」
イルカはにこっと笑うと、手が油だらけになるのも厭わずに、カカシのために丁寧に衣を剥いでいく。
「はい、どうぞ」
食べやすいように身もほぐして、トレーの端に置いてくれた。
「にゃぁ(ありがとう)」
「どういたしまして」
ふわふわ浮き立つような気分で、イルカと食事を共にしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こんにちは、イルカ先生」
「紅先生。ご無沙汰してます」
「ミャッミャミャ!(ゲ、紅!)」
イルカと向き合うように席に着いた紅は、目の前でびくりと大きな耳を立てて、縮こまる子猫の姿のカカシを見て、目を輝かす。
「可愛い!この子も忍猫なの?」
「そうです」
イルカも流石にまずいと感じたのか、苦笑いしている。
「へ~。いつもの忍猫ちゃんは一緒じゃないの?」
「今日はちょっと出かけてて」
「うふふ。イルカ先生ったら、可笑しい。出かけててって、まるで人間みたい」
「シラスは家族ですから」
微笑む紅に照れくさそうに笑うイルカの姿が、ほんの少し面白くなくて、カカシはぷいっとそっぽを向く。
「あらあら子猫ちゃんったら、私にイルカ先生を取られたって思ってるのね。いじけちゃって。まるでカカシみたいね」
「ミャミャ!(俺みたいって!)」
思わず全身の毛がぶわっと膨らんだカカシを、面白そうに紅は眺めている。
「カカシって昔っから何でも自分一人が背負ってますって感じで、昔なじみの私たちとも一線を引いてるところがあったのだけど……イルカ先生と出会ってから変わったわ。あいつ」
「変わった?」
驚いた顔で問いかけるイルカに、紅は面白そうに微笑む。
「イルカ先生のこと大好きなのよ。本人は気づいていないのかもしれないけれど、いっつもイルカ先生がってイルカ先生の名前連呼してて、隠してるつもりなのかもしれないけれど、丸わかりなのよね」
紅の言葉にイルカは茹で蛸のように頬を染めている。
カカシはそれ以上聞いていられなくて、イルカのベストの中に逃げ込んだ。
「カカシのことお願いね」


紅と別れて、受付所へと向かう通路を歩きながら、イルカが言う。
「紅先生。いい人ですね。カカシさんのこと、ずっと気にかけてくれてたんですね。」
「みゃぁ(うん)」
「カカシさんは人犬族の長としてずっと一人でこの里を守ってきたけれど、一人じゃなかったんですよ」
「にゃー。ニャニャ(そうだね。ずっと気がつかなかった)」
「俺にも手伝わせてくださいね。カカシさんのこと」
「みゃぁ?(イルカ先生?)」
「だって俺たちは番なんだから」
通路の窓から差し込む光が眩しくて、カカシは目を細める。
その光より眩しかったのは、イルカの笑顔だった。


夕刻受付での業務が終わったイルカと共にカカシが帰宅したのは、20時を過ぎていた。
受付の仕事があんなに大変だったなんて、カカシは知らなかった。
ずっとイルカの胸元から顔を出して、仕事をするイルカの姿を眺めていたのだけれど。
任務表を受け取り出立する忍びは比較的冷静で、穏やかな者が多かったけれど、任務帰りの忍びは気が高ぶっていて、横暴な態度を取る者や、任務報告書の記載漏れを指摘されると、突然狂ったように逆上する者もいて、イルカ達受付係は対応に苦慮していた。
「ニャ~(こんなに大変だったんだ)」
思わず呟いたカカシに、イルカは何でもないと言いたげに微笑む。
「大丈夫です。カカシさん達前線で戦っている方に比べたら、この程度のこと」
「みゃぁ(イルカ先生)」
何よりも一番カカシが腹を立てたのは、イルカ達受付係を性処理の道具にする者がいたことだ。
任務帰りは気と共に性欲が高まることは一般に知られている。押さえきれない欲を持つ者は、然るべき場所で発散させてから任務報告所を訪れるのが常だったのだが。
「イルカ。あいつだ、気をつけろ」
イルカの隣の席に座る、同僚の受付係が警告してきた。
「にゃぁ?(何?)」
「カカシさん、あっちは見ちゃ駄目です。気分が悪くなりますから」
そう言ってイルカは任務受付所の入り口の左端から目を背ける。
人の背丈ほどある観葉植物の鉢の陰で、一人の男がこちらを眺めながら、ごそごそとしきりに股間を動かしていた。
「にゃっ!(あいつ!)」
男はしばらくすると任務報告書を持ってイルカの前に現れた。
その男から発する饐えた匂いに、カカシは毛を逆立てて身震いする。
イルカの前に差し出された任務報告書は、白い体液が飛び散っていて汚れていた。
イルカは一瞬眉をひそめたけれど、何事もなかったように書類をチェックする。
この男。イルカ先生をおかずに抜いてたのか!!
「アンタさ、この後暇?」
イルカに向けて体液で汚れた手を伸ばしてきた男を、カカシはイルカの胸元から飛び出すと、全身の毛を逆立て、威嚇した。
「何だこの小さい猫は」
カカシを薙ぎ払おうと振り上げた男の腕に、カカシは齧り付くと、力一杯牙を立てた。
「このっ!」
床に叩きつけられるかと思ったとき、飛び出してきたイルカが男の腕を掴み、カカシを庇った。
「申し訳ありません。私の忍猫が手荒なまねをしまして」
「チッしっかり仕込んでおけ!」
男は捨て台詞を残して去って行った。
「大丈夫ですか?カカシさん」
イルカは床にしゃがみ込むと、カカシを抱き上げる。
「みゃぁ。ニャニャニャ?(俺は大丈夫。イルカ先生こそ大丈夫?)」
「俺は平気です。慣れてますから」
そうイルカは言うが、明らかに顔色が悪い。
「にゃぁ、ニャ~ニャ?(イルカ先生。今日はもう休ませて貰えないの?)」
「これぐらいのことで動揺してたら、受付中忍は務まりませんよ」
気丈に微笑むイルカにカカシはそれ以上何も言えず押し黙ったが、いつでもイルカの盾になってやろうと、再びイルカのベストの胸元に潜り込むと、目を光らせた。


夜食を軽く取り、イルカがちゃぶ台の上を片付けた頃、何の気配も立てずに羅刹丸が玄関のドアを開け帰ってきた。
「お帰り」
迎えに現れたイルカの前で、羅刹丸は昨夜と同じように人型から猫へと姿を変え、イルカの腕に収まった。
「もう飯は食ったのか?風呂には入ったか?」
まるで親のような言葉を投げかける猫の妖は、イルカが食事を終えたことを確認すると、腕から抜け出し、お気に入りの座布団の上でごろりと横になる。
「羅刹丸。ご飯にする?俺はもうカカシさんと一緒に風呂に入るけど」
イルカのその言葉にカカシの耳はピンと立ち上がり、尻尾がぶわっとたわしのように膨らんだ。
そうだ。そうなのだ。嬉し恥ずかし、イルカ先生と一緒にお風呂に入るのだ。
カカシは興奮から、尻尾が狸の尾の様に揺れているのにも気がつかない。
昨日は疲れていたこともあって、カカシはそのままイルカの脇で眠ってしまったのだが、今夜は違う。
番になってから、もう何度も体を重ねたし、互いの体は隅々まで知り尽くしているけれど。
イルカはいつも恥ずかしがって、なかなかカカシと一緒に風呂に入ってくれなかったのだ。
イルカ先生とお風呂。
興奮から、目がまん丸になり、体の毛も鞠の様に膨らませながら、カカシは前足をフミフミと動かし喉を鳴らしていたのだが……
「儂も風呂に入る」
「ミャ!ニャニャ?(は!アンタも入るの?)」
「そうじゃ。悪いか?儂はイルカが小さい頃からずっといっしょだったからのぅ」
「ニャニャニャ!(いつもイルカ先生と入ってたのか!)」
勝ち誇ったように優雅に長く白い尾を振る羅刹丸に、カカシはむっとした顔を浮かべると、ぷいっと顔を背けた。

「良いお湯ですね~」
上気した肌が艶めかしいイルカが、温泉の元の入った風呂の中で気持ちよさそうにくつろいでいる。
そのイルカの腹の上に白く大きな猫の妖は陣取り、気持ちよさそうに目を細めていた。
一方カカシはと言うと、湯船に浮かんだ洗面器の中にお湯を張って貰い、その中に入っていた。
「綱手から連絡は来たのか?」
羅刹丸の問いにイルカは首を横に振る。
「人猫族の男の捜索は難航しているようだの」
「……」
羅刹丸の言葉にイルカは俯き口を閉ざした。
カカシはそんなイルカの顔を見つめながら、ため息をこぼす。
このまま、人猫族の男が見つからなかったら?
呪いは解けないのだろうか。
呪いが解けなかったら?
俺はずっと猫のまま……
耳を垂らし、しょんぼりとした様子の子猫のカカシに、イルカは微笑むと語りかけてきた。
「カカシさん、いつか言ってくれましたよね」

『……俺はイルカ先生が猫のままでも全然構わないよ。……ううん、それって、すごくいいかも。今までの仕事は出来ないから、受付で他のヤツに笑顔を向けることもなくなるよね。それで先生とずっと一緒にいられる。一緒に暮らして、毎日イルカ先生と過ごせるなんて、すっごく嬉しいな。……あぁ、俺の忍猫として契約しちゃおうか。そうしたら、猫のイルカ先生とずうっと一緒だよね……』

「もし万が一元の姿に戻れなくても、俺は構いません。カカシさんさえ側にいてくれれば、俺は幸せなんです。何があっても俺は貴方の側を離れません。俺の番は貴方しかいないから……」
「にゃぁ(イルカ先生)」
イルカ先生の気持ちが嬉しくて、不覚にも泣きたくなる。猫の姿のままでは、涙をこぼすことは出来なかったけれど。
「犬使い殿。何なら儂の眷属になるか?大妖の使いとして、こき使ってやるぞ?」
「フー!(誰がなるか!)」
羅刹丸の使いパシリなんて、冗談でもなりたくない。
ムッとするカカシに、にやりと笑う猫の妖は、目を細めて意味深な言葉を呟いた。
「妖の目を持ってしても、逃げおおせるか。それとも……」

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