【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
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人猫族の男の捜索が開始されて一週間が過ぎても、状況に変わりはなかった。
一度綱手から連絡が来たが、人猫族の男の行方は依然として掴めていないという物だった。
「ヤマトさんに暗部の方まで捜索してくれてるのに、見つからないなんて。一体どこに消えたんでしょうね」
アパートのベランダに布団を運びながらイルカは「よっこらせ」とベランダの柵に布団を干す。
ベランダの掃き出し窓から見える空はよく晴れ渡っていて、清々しい。
「今日は天気が良いから、外に出ましょうか?今度の授業で使う薬草を採取しておきたいんです。出来たら教科書に載ってるような薬草じゃなくて、もっと実戦で役立つ物を生徒には教えてあげたくて。カカシさん、アドバイスしてくれますか?」
「にゃ~(もちろんですよ)」
カカシはイルカのベストの中に潜り込むと、胸元からちょこんと顔を出す。
もうすっかりここが定位置になってしまった。
「羅刹丸は夜まで帰ってこないから、一応鍵かけておきますね」
アパートの外通路に出ると、イルカは玄関のドアの鍵をかける。
忍びの里と言うこともあって、鍵はかけてもかけなくても大差はないのだが。本当に侵入を防止したいときは、結界や封印術をかける。
カカシのアパートは、強固な結界を施しているのだが、イルカは部屋の窓にもカーテンを付けないくらい大ざっぱな所があった。
おそらくイルカ先生が知らないだけで、先生の部屋には外部からの侵入を拒む結界が張ってあるに違いない。
カカシは気を張り巡らせるが、妖の持つ匂いは感じるものの、結界を感知することは出来なかった。
あの羅刹丸がそう易々と外部からの侵入を許すはずがないのだ。
妖の術は忍びが使う術とは力の源がそもそも異なるので、感知することは難しい。
人犬族の高度な感知能力を持ってしても結界の存在を見つけることが出来ないのは、羅刹丸がただの妖ではなく、妖の中でも高位の存在だからだ。
眷属を自在に操れる存在。
カカシを自分の使いパシリにしてやると言ったのも、あながち冗談ではないのかもしれなかった。


カカシはイルカと共にアカデミーの裏山にやって来ると、イルカの胸元から飛び出し、薬草を探しに草むらの中に頭を突っ込む。
普段なら子供達の声も聞こえてくるこの場所も、今日はアカデミーが休みなので、静かだ。
のどかな鳥の鳴き声が聞こえる山の中で、白い尾をピョコピョコ揺らして動き回るカカシの姿は、とても愛らしいせいか、イルカがほほえましそうに目を細めていた。


夕刻ビニール袋いっぱいに採集した薬草を持って、カカシがイルカと共にアパートへ帰ると、玄関のドアは開いていてた。
怪訝に思いながら中へ入ると、そこには難しい顔を浮かべた白髪の美貌の青年、羅刹丸が胡座をかいてお気に入りの座布団の上に座っていた。
「羅刹丸。帰ってたんだ。今日は早かったんだな」
「うむ」
薬草の入ったビニール袋を玄関の片隅に起き、脚絆を取り下足を脱いだイルカの胸元から、カカシは床に飛び降りる。
猫の妖は「話がある」と言ったものの、口を噤んでしまった。
カカシはそんな様子を不審に思いながらも、台所へ入っていったイルカの足下に、纏わり付くように後を追う。
イルカが羅刹丸と自分のお茶と、カカシ用のミルクを持ってちゃぶ台の前に座ると、ようやく羅刹丸は口を開いた。
「単刀直入に言う。犬使い殿にかけられた呪いは解けぬ」
「にゃっ(え?)」
突然の言葉にカカシは大きな目を丸くする。イルカもまた固まっていた。
「綱手に人猫族の男の捜索は取り止めだと伝えよ。この世におらぬ者を探し出したところで、呪いは返せぬ。二度死ぬことは出来ぬからのぅ」
「それって?羅刹丸、もしかして今まで出かけてたのは、もしかして……」
イルカの言葉に羅刹丸はふんと鼻で笑って、眉をしかめた。
「忍びとは言え所詮人の子よ。獣人の捜索が難儀することは目に見えておったわ。いつまでも犬使い殿に居座られても困る故、我が眷属を使い方々を探し抜いた。じゃが見つかったのは既に朽ち果てた骸だったわ」
その言葉にカカシもイルカも絶句する。
「呪いが解けぬ以上は次の手を用いるしかあるまいのぉ」
「ミャミャ?ニャーニャ?(次の手って?他にも方法があるのか?)」
問いかけるカカシに羅刹丸は非常に苦々しい顔を浮かべる。
「犬神を頼るのだな」
「犬神?」
「そうじゃ。人犬族は犬の眷属じゃ。犬神に呪いの上掛けを頼め。犬に戻れるように」
「ミャミャ?(呪いの上掛け?)」
「人猫族の猫になる呪いが解けぬ以上、さらに強い力で無効化するしかあるまい。はたして犬神の力でどこまで戻れるかはわからぬ。ただの犬っころになるか、獣人にまで戻せるか、見物よのう」
羅刹丸は色違いの目を細めて、含み笑いを漏らす。そのどこか暗い笑みは今まで見せたことのない妖の狂気が滲み出ていた。
イルカはふぅと大仰なため息を漏らすと、お茶を一口すすり、まるで近所に買い物に行くような気楽さで口にした。
「それじゃ、行きますか」
「ミャ?(え?)」
「カカシさんを元の姿に戻して貰えるように、犬神に頼みに行きましょう」
「ニャーニャ(イルカ先生)」
「大丈夫です。俺が一緒にいますから」
にっこりと微笑むイルカは誰よりもたくましく見えて、カカシは思わずイルカの体にふわふわの毛玉のような全身をこすりつける。
そんな様子を見て、イルカがくすぐったそうに目を細めた。
「ニャーア?ニャニャ?(それで?犬神にはどこへ行ったら会えるんだ?)」
「知らぬな。儂は犬は嫌いじゃ。どこにおるかなど、知りとうもない」
「え?羅刹丸知らないの?知らないなら、一緒に探してくれよ」
羅刹丸は「はぁー」と気の抜けたため息をこぼして、苦い顔を浮かべた。
「いくらイルカの頼みであっても、これだけは出来ぬ。儂にも大妖としての立場がある故、奴を探すようなまねは出来ぬ」
「……そうか。無理言って悪かったよ」
しゅんと俯くイルカの姿に、羅刹丸は困った顔を浮かべると、ガリガリと逆立った頭を掻き毟った。
「イルカ、そのような悲しい顔はするな。儂とてイルカの気持ちはよう分かっておるのじゃ。奴を探すことは出来ぬが、奴の居場所を知る方法は教えてやろう」
「教えてくれるの?」
弾かれたように顔を上げたイルカに、羅刹丸は微笑む。
「犬のことは犬に聞け。本来ならば人犬族こそ最も犬神に近いが、犬使い殿は犬神のことも一族のことも知るまい。人犬族は急速に数を減らしたからの。人猫族と一緒じゃ」
「ニャー(俺は)」
「同じ犬の血族を頼ることだ。人狼……奴らは狼神の眷属じゃが、犬も狼も元をたどれば同じ生き物よ。人狼ならば、犬神のことも知っておろう」
「人狼。あの人ならば知ってるかもしれないってことか」
イルカはぱっと瞳を輝かす。
「ミャー……(人狼)」

『感謝する。人犬族の長、はたけカカシ。お前が必要と感じた時は、我らを頼ると良い。いつかきっとこの恩は返そう』

人狼とは、彼の子供を助けた事で、面識があった。
人狼の一族は、火の国の山間部にある町で暮らしていて、満月になると狼の姿で町を徘徊することから、その町に住む人々に忌み嫌われ、いがみ合って暮らしていると、人狼は言っていた。
まさかこんなに早く人狼を頼ることになるとは思わなかった。
「それじゃカカシさん。早速準備して行きましょう!」
「ニャ?ニャニャニャ?(え?イルカ先生?)」
急にパタパタ出立の準備を始めたイルカに面食らっていると、いつの間にか猫の姿に戻った羅刹丸が、呆れた声を上げた。
「イルカや。そう急くでない。まずは綱手に連絡を取ることじゃ。然るべき手続きを取るのを忘れてはならん。お主にも立場があろう。正式に動くのは明日にせい。今夜は家で休め」
羅刹丸の言葉にイルカはしゅんと頷く。
「分かったよ。羅刹丸」
綱手に宛てて式を書き始めたイルカを見つめながら、カカシは呟いた。
「ニャニャニャーニャ、ニャーニャ(驚いた。意外とアンタ常識人だったんだな)」
「フン。当然じゃ。全てはイルカの為。愛し子を守り、導くのは儂の使命じゃ。唯一計算違いだったのは……犬使い殿。貴様の存在じゃ」
羅刹丸は座布団の上でごろりと横になりながら、じっとカカシを見つめていた。
「儂は今でも貴様のことを認めたわけではない。じゃが優先すべきはイルカの思いよ。再びイルカを泣かせるようなことがあれば、儂は貴様を葬り去るやもしれぬ。そのことを忘れぬ事だ」
「ニャー(羅刹丸)」
猫の妖はフンと鼻を鳴らすと、両の目を眠そうに細めた。
式を送り終えたイルカは台所へ入っていく。
その直後皿をひっくり返す派手な音が響いてきて、カカシはびくりと体の毛を逆立てた。
「やれやれ、またやったか」
羅刹丸が呆れた声をあげる。
カカシは苦笑しながらも、イルカの手助けをしようと台所を覗きに行った。

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