【Caution!】

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★エロし ★★いとエロし!
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翌日晴れ渡る空の元カカシがイルカの胸に抱かれてあうんの門を潜ったのは、昼過ぎのことだった。
「今宵は満月じゃ。狼共も、夜になれば姿を現すじゃろ」
イルカを溺愛する猫の妖は、あうんの門の前まで見送りに来たが、一緒に来ることはしなかった。
カカシがイルカと共に人狼達の住む火の国の山間部にあるその町に着いた頃には、日は西に傾き紺色の帳が降りてきていた。
東の空の下には、赤く染まった大きな丸い月が見える。
羅刹丸の言葉通り、狼の来襲を知っている町の人々は、そわそわと忙しなく家路を急いでいる。
湯治目当てに来た何も知らない観光客だけが、不思議そうに町の様子を眺めていた。

「カカシさん、人狼達が現れるまでまだ時間があります。先に宿を取りましょう」
イルカが見つけたのは、こじんまりとした旅館だった。
町の大通りから外れた場所にあるせいか、あまり繁盛しているようには見えなかったが、この町の観光の目玉でもある源泉を引いた風呂は完備されていた。
「狭いところで申し訳ありませんね」
そう言いながらも宿の主人が案内してくれたのは、部屋付きの露天風呂がある小さな和室だった。
「今夜は満月ですので、露天風呂での入浴は早めに済ませて下さい。忍びの方とは言え、夜間の外出は危険です」
宿の主はそう念を押して、部屋を後にした。
「せっかくだから露天風呂に入りましょう。温泉ですよっ温泉!」
イルカは嬉しそうにはしゃいで見せたが、時折不安げな表情を浮かべるのを、カカシは見逃さなかった。
「にゃぁ(イルカ先生)」
「大丈夫ですよ、カカシさん。俺に任せて下さい。人狼さんに会って、早く犬神の所へお願いに行きましょう」
「ニャー(ありがとう)」
檜の香りのする温泉に浸かりながら、空高く昇った月を眺めるイルカは美しい。
ぷかぷかと湯船に浮かぶ手桶の中で、湯に浸かりながら、カカシはじっとその横顔を見つめていた。

深夜零時を回った頃か、静寂に包まれた部屋の窓の向こうから、獣の鳴き声が聞こえた。
「ウォォォーン」
まるで呼応するように町の至る所から、鳴き声は聞こえてくる。
空高く響くその声は――
「人狼が現れましたね」
布団の中で仮眠を取っていたカカシはもそもそと這い出ると、ブルルっと全身を振るわせる。
イルカもまた手早く浴衣から支給服に着替えると、ベストを羽織り装備を調えた。
カカシはイルカのベストの中に収まると、夜の闇の中跳躍する狼を追って静かに宿を後にする。
黒く大きな獣が闇の中を疾走するのを見つけて、イルカが追跡を開始した。
狼の姿は町の朝市が開かれると言う大きな広場までたどり着く。
気がつくと周囲には獣の荒い息づかいが聞こえ、闇の中月明かりを受けて反射するいくつもの獣の目が、じっとカカシとイルカを見つめている。
狼の後を追いかけてきたつもりが、後を追われたのはこちらの方だ。
「囲まれちゃいましたね」
イルカは苦笑する。
だが好都合だ。
こちらが探すまでもなく、人狼が現れてくれたのだから。
月明かりの下蠢く狼達が、一斉に身を伏せた。
闇の中から現れたのは、銀色の大きな獣の耳と、ふさふさとした尾を生やした少年だった。
「え?」
「にゃぁ?(人狼……じゃない?)」
年の頃は12,3歳か。アカデミーを卒業して間もない下忍と同じくらいの少年の姿に、カカシは戸惑う。
カカシとイルカの知る人狼は、成人だった。
「叔父の命により迎えに上がりました。人犬族の長、はたけカカシ様と、その奥方イルカ様」
少年の口から発せられた言葉に、イルカが頬を染めて動揺する。
「お……奥方って、俺のこと?」
「んにゃにゃ(イルカ先生が奥方)」
プシューと湯気の出そうなイルカの胸元で、カカシも照れ笑いする。
「叔父の元までご案内いたします」
少年はそう言うと、背を向け歩き始めた。
その後を狼の集団も付き従う。
「あの子まだ子供なのに、まるで狼の群れのリーダーですね」
銀色の尾を揺らし歩く少年の後ろ姿を見つめ、イルカが呟く。
「ニャニャ。ニャーニャー。(間違いなくリーダーだよ。年は関係ない)」
少年は町外れの山の袂まで二人を連れてくると、突然その姿が揺らぎ、狼達の姿が消えた。
「どうぞ、そのままこちらへ」
少年の声に導かれて歩を進めると、瞬身する時に感じる空気の渦から抜け出すような感覚と同じ空間の揺らぎを感じて、次の瞬間には大きな屋敷の前に立っていた。


空を覆い尽くす程高く伸びた常緑樹に囲まれたその屋敷は、温泉街に建ち並ぶ建物とは異なり、異国の洋館の様だった。
「立派なお屋敷ですね。火影屋敷にも勝るとも劣らない」
洋館の入り口に立っていた少年に導かれて、屋敷の中に入ったイルカは、興味深そうにキョロキョロと見回している。
「ミャーニャニャ(イルカ先生。そんなにキョロキョロしてたら転びますよ)」
イルカの胸元でカカシは苦笑した。
照れくさそうに笑うイルカは、子供っぽくて素直だ。それが好ましくもあり、心配な一面でもあった。
木造の建物は、小洒落ていて、壁際には絵画も飾られていた。高い天井にはつり下げ式のガラスで出来た鈴のような照明が煌めいていた。
カカシとイルカの背後には、黒いメイド服を着た女性が、ぴったりと付き従っている。
黒髪の間から覗く大きな耳は狼の耳で、黒いスカートの背後には長い尾も見えた。
「後ろの女性、ただ者じゃないですね」
「ミャーニャニャ。ニャーニャニャ(おそらく護衛も兼ねているのでしょう。他の人狼の中でも戦闘能力は高いと見て間違いない)」
長い廊下の突き当たりまで来ると、少年が黒く重厚な木製の大きな扉を開いた。
その先の部屋で待っていたのは――
「ようこそ、我らが屋敷へ。人犬族の長、はたけカカシ。その妻、うみのイルカ」
銀色の髪に大きな獣の耳を生やし、鮮やかな赤い瞳に長い尾を持つ青年。
あの日出会った人狼だった。


人狼に促され、広い部屋の中の豪奢なソファーにイルカは腰掛けた。イルカの支給服のベストの胸元から、カカシはちょこんと顔を出し様子をうかがう。
ガラステーブルを挟み、向かい合うように座る人狼の隣には少年が座り、傍らには、木製のベビーベッドが置かれている。そのベッドの中には、すやすやと眠る赤子がいた。
「お前達には感謝している。まずは名乗るのが先だな。私の名は砕牙。この屋敷の主で、人狼族の長だ。この子は凍夜。私の姉の息子で、私の跡継ぎだ。ベビーベッドで眠っているのは咲七。お前達に助けて貰った私の娘だ。いずれ凍夜と番わせようと思っている」
砕牙は赤子を抱き上げると、部屋の入り口に控えていたあのメイド服を着た人狼の女性を呼び寄せ、手渡した。
「凍夜、お前も自分の部屋へ戻りなさい」
少年も砕牙に促されると、メイドの女性と共に部屋を後にした。広い部屋の中には、カカシとイルカ、そして砕牙だけが残された。
「さて、お前達が来た理由は分かっている。はたけカカシ。お前にかけられた人猫族の呪いを解く為だろう?」
「ミャーニャニャ(なんでそれを?)」
問いかけるカカシに砕牙がクックッとくぐもった笑い声を上げた。
「私の配下は木の葉の里にもいる。お前達人犬族や人猫族とは違い、我ら人狼族はまだまだ数は多く残されているのでな。長たるもの一族の存亡のためには、あらゆる情報を得る努力は惜しまぬ。獣人の動向だけではなく、忍び世界の動きを知ることもまた必要なのだ」
「木の葉の忍びの中にも、人狼族がいると言うことですか?」
「察しが良いな」
砕牙の言葉にイルカは目を見開くと、絶句した。
「ニャーニャニャ。ニャニャ?(単刀直入に聞く。犬神の居場所を教えて欲しい。アンタなら知ってるだろう?)」
「聞いてどうするのだ?」
「ニャニャニャーニャ、ニャニャ(元の姿に戻れるように呪いの上掛けを頼むつもりだ)」
「呪いの上掛けか……犬神の力で呪いの無効化を狙うか。考えたな。だがそのようなリスクを冒さずとも、はたけカカシ。お前なら、もっと簡単に自力で元の姿に戻れるはずだが」
「にゃっ(えっ!)」
「ええっ!」
砕牙の言葉にカカシもイルカも驚いた声を上げる。
もっと簡単に自力で元に戻れるって!
「あの猫の妖。大妖殿なら、知っているはずだが」
「ニャニャ!ニャニャニャ!(羅刹丸!あいつめ!)」
憤慨するカカシを胸に抱いたイルカが口を開く。
「羅刹丸は犬神を頼るしかないって言いました。他の方法があるなら、俺には教えてくれたはずです。それなのに教えてくれなかったなんて……一体どういう方法なんですか?」
悲痛な顔を浮かべるイルカに、砕牙は困ったようにため息をついた。
「何故大妖殿が教えなかったかは知らぬが……お前達も知っているはずだ。我ら獣人は極度の興奮状態に陥ると、獣に戻ることを」
「みゃぁ(それは)」
カカシはちらりとイルカを見上げた。イルカは知らないはずだ。人猫族として成熟したばかりのイルカは。
極度の興奮状態に陥ると、獣に戻る。
それはカカシには何度も体感したことのある物だ。日頃は理性という名の楔で本性である獣を飼い慣らしているが、ひとたび感情が暴走し、楔が切れると、カカシの体は変貌する。
両の耳は大きく獣の耳に変わり頭頂部に伸びて、尾てい骨からは銀色に輝く尾が生える。
その外観は人狼族である砕牙や凍夜と変わらない。
まだ完全に四つ足の犬の姿にまで戻ったことはないが……
「我ら人狼はお前達よりも原種に近く、より獣に戻りやすい。人狼族が満月になると狼の姿に変わるのはその為だ。長である私や、力の強い一握りの人狼だけが、完全な獣化を免れている。それでもこのように満月の影響を受け、獣の耳と尾は生えてくるがな」
そう言うと砕牙は自嘲気味に笑った。
「ニャニャ、ニャーニャ?(それで、獣化することと元の姿に戻ることがどう関係するんだ?)」
「獣化することとは己の中の力に目覚めることと同義だ。己の本来の力を引き出すことで、呪いをはね除ける事が出来るはずだ。ただの獣人には出来ぬだろうが……はたけカカシ。人犬族の長であるお前なら、出来るだろう」
獣化し、己の中の力に目覚めること。
カカシが獣化するほど感情の暴走を止められなくなったのは、過去何度もあった事ではない。
父の自死に直面したとき、オビトを亡くしたとき、リンをこの手にかけたとき、そしてミナトが死んだとき。それ以降は獣化とは縁がない生活を送っていたが……イルカと出会って変わってしまった。
最も近い獣化した時、それはイルカと羅刹丸の関係を疑ったときともう一つ。
イルカと番になったとき。
イルカと初めて互いを思いやり、愛を確認して、番の契りを交わした時だった。
「獣化して元に戻るなら!カカシさんやってみましょう!」
イルカは目を輝かせ、明るい顔を浮かべる。
「にゃぁ(イルカ先生)」
「獣化を引き出す方法は、人間と番い一族に迎え入れる方法と同じだ。お前達も知っているだろう?獣人と人が番う為の儀式、獣人の掟を」
「みゃぁ?(獣人の掟?)」
「知らぬのか?」
頷くカカシとイルカに、砕牙は呆れた顔を浮かべた。
「まさか人犬族の長が知らぬとは……先代は何も伝えなかったのか?」
この言葉にカカシはムッとした顔を浮かべる。苦笑したイルカが慌てて答えた。
「カカシさんはまだ幼いころにお父さんを亡くしているんです。俺も両親を幼い頃になくしているので、つい最近まで自分が人猫族だと言うことも知りませんでした。ましてや獣人の掟なんて、初めて聞いたぐらいで……」
「なるほどな。では教えてやろう。獣人と人が交わり番となるためには、一族の一員として認められなくてはならぬ。それは私たち人狼や人犬族のような群れで暮らす一族はもちろん、人猫族のような群れを作らない一族であっても同じはずだ。一族の一員と認められるには、一族の前で番の儀式を交わすことだ」
「みゃあ、みゃみゃみゃ?(一族の前で番の儀式をするって?)」
「まさか!!」
その意味することに気がついたイルカが、目を見開き頬を染めた。
「一族皆が見てる前で、セックスするって事……」
カァァァと湯気がでそうなほど顔を赤らめ、動揺するイルカに、カカシもまた、驚き毛を逆立てた。色違いの両目は興奮したときと同じ、まん丸に開かれている。
「ミャ!ミャミャミャ!(どおりで!羅刹丸が教えないはずだよ)」
動揺する二人の前で、砕牙は淡々と説明を続ける。
「一族の見ている前で番の儀式を行うことは、一族の一員として認められることはもちろん、性的に交わるという本来であるならば秘められし事を皆の前で行うことで、極度の興奮状態を招くのだ。人間は興奮状態に陥ることで、本来目覚める事のない獣としての本性に目覚める。人間達は知らぬだけで、奴らの中にも獣の血は混じっている。獣人も人間も元をたどれば同じ祖先に辿り着くからな。自らも獣となることで、初めて人間と獣人は番となる」
「ニャニャ、ニャーニャ?(それを俺にもやれと?)」
未だ動揺を隠せないまま、カカシは尋ねる。
「そうだ。はたけカカシ。ちょうど良いではないか。お前には妻もいる。我らが見届け人となってやろう」
砕牙の言葉に、カカシはイルカを仰ぎ見る。
イルカは未だに頬を赤く染めたまま、困惑していた。
ドキドキとイルカの心臓の音が、早鐘のように聞こえてくる。
「みゃぁ(イルカ先生)」
真面目で羞恥心が強く、一緒にお風呂に入ることですら恥ずかしがるイルカが、他人の前でカカシと性交するなんて、出来るはずがない。
羅刹丸もそれを知っているからこそ、教えなかったのだろう。
自分の子が他人の目にさらされながら交わる姿なんて、親だったら見たくもないはずだ。
「にゃぁ、ニャニャニャ(イルカ先生。無理しなくて大丈夫ですよ)」
カカシはイルカの胸元から首を伸ばすと、ぺろりとイルカの首筋を舐めた。
「ニャニャニャ、ニャーニャ。ニャーニャ(アンタの気持ちはありがたいが、俺たちには無理だ。犬神の居場所を教えて欲しい)」
「リスクのある方法を選ぶと言うことか。良かろう。教えてやろう」
砕牙が小さく嘆息し、ソファーから立ち上がろうとしたときだった。
「やります!やらせて下さい!」
「みゃぁ(イルカ先生)」
「カカシさんを元に戻すためなら、俺は何だってします。どうかお願いします。やらせて下さい」
イルカは黒い尻尾の様な髪を揺らして、人狼に頭を下げた。
「分かった。では儀式の準備をしよう」

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