【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 ザザザという葉擦れに、時折金属の打ち合う音が混じる。
 抜け忍とその手引きをした他里の忍を捕らえるスリーマンセルでの任務は、正直三人も必要ないものだった。抜け忍がかつて暗部に所属してたこともあり、他里も相応の顔触れを揃えてくるだろうという予想通りではあったが、テンゾウを含む暗部の精鋭の前にはたいしたことはない。
 影分身を残して拘束されたまま逃げ出した他里の忍を追いつめたところで、テンゾウは忍刀を構える。一人生け捕りにしてあったので他の者の生死は問わないが、だからといって絶命させる必要もない。適当に抵抗力を削いで尋問部に引き渡そうと、土を蹴る。


 と、利き手を掴んで阻まれた。

「そこまで」

 振り返ると狗面の隊長がじっと見つめている。

「やりすぎでしょ。ストレス溜まってんなら、花街でも行って抜いてきなさいよ」

 呆れの中に不審感を滲ませたカカシの声に、まだ追い詰めただけで何がやりすぎなのかとテンゾウは下を見た。
 そこには忍刀を突き立てられた他里の忍の死骸が転がっていて、とうに絶命しているのは一目瞭然だった。いつもなら一閃で始末を付けるのに、醜い刀傷が幾筋も走り、突き立てた痕も一つ二つではない。
 それ以前に、忍刀を振るった記憶がテンゾウにはなかった。

「……すみません」

 戸惑いながらも素直に謝ると、カカシは面の奥から静かに見定めるようにテンゾウを見て踵を返す。

「帰るよ。俺に手間をかけさせた罰として、報告はお前ね」

 カカシがわざわざ追ってきたということは、たかだか拘束された忍一人に相当時間を食っていたのだろうかと、テンゾウは己の行動を訝しんだ。確か抵抗力を削ごうと思っていたはずなのに、足元にあるのは徹底的に嬲り殺された忍の死体だ。刀を振るった記憶もない。
 カカシが任務完了の式を飛ばすのを横目に見ながら、言われた通りストレス過多なのかと一抹の不安がよぎった。



「お疲れ様です! 報告をお願いします」

 あの後テンゾウの元に真っ直ぐ飛んできたのは、なぜか群青色の式だった。時間的には三代目への直接口頭での報告になりそうなものだけど、と首を傾げながら窓から受付に滑り込むと、待ち構えていたのはいつもの彼で。
 他の面子は暗部専用の門を抜けたところで早々と解散していたので、疑問に答えてくれる者もいなかった。
 今回は報告書を書く暇もなかったこともあり、要約を述べている傍から黒髪の男が素早く書き留めていく。

「……はい、全て承りました。ところでこの逃走した忍ですが、絶命させたのは隊長のご判断ですか?」

 曖昧にぼかしたところも見逃さず突いてくるのは、さすがというべきか。
 暗部の任務内容をことごとく把握し、こうして自己裁量で質問まで許されているのは、三代目に相当信頼されている証だろう。チャクラ的にも上忍とは思えないが、それは緋色や濃鼠色の受付の忍も同様だ。その信頼されている受付の忍に誤魔化しても任務の妨げになるかと、テンゾウは素直に答えた。

「いえ、私個人の判断です」
「それはどのような根拠で?」

 間髪入れない踏み込んだ質問に、テンゾウは少し戸惑った。

「それは報告書に必要ない部分では? 他里の忍は一人を残して生死を問わないという理解でしたが」

 若干突っ掛かる言い方になってしまったと思っていると、黒髪の男はにこりと笑い返した。

「任務内容としてはそうですが、あなたらしくないと思ったものですから」
「私らしく、ない……」

 彼がいかにも自分を知ってる風な言い方も気になったが、確かにあれはあまりにも自分らしくないやり方だった。

「暗部の任務は苛酷で繊細です。僅かな違和感でも後の憂いに繋がることもありますので。できればお答えくださると、こちらとしても有り難いです」

 そう気遣いを滲ませながら下手に出られると、感情的になった自覚もあって分が悪い。

「根拠はありません。ですが、拘束しているにも関わらず逃走を謀れたので、それだけ脅威になると無意識に判断したのではないかと」
「無意識に……。ですが、あなた程の腕なら、拘束された相手だと一太刀で済ませられたのではないでしょうか」

 他里の忍の死亡時の状態を知っているということは……先輩か、とテンゾウはカカシの飛ばした式を思い出した。カカシが何らかの違和感を式で送り、それがこの尋問じみた報告に繋がったのかと思うと小さな苛立ちを覚える。

「抵抗があれば無理でしょう」
「あったのですか?」
「いえ、それは」
「もしかして、覚えてらっしゃらない?」

 どうだろうか。
 本当に覚えてないとしたら、それは少しまずい気がする。
 確かあの時は敵を追って、適当に腱を切って(……セ)と思いながら土を蹴って(コロセ)、それで忍刀で(コロセ)斬り下げて

「……ろ、せ」
「はい?」
「ころせ……殺、せ、……」

 殺せ。
 殺せ。
 クナイ。
 そうだクナイがいい。
 殺せ。
 目の前のこの男を。
 オレなら殺せる。
 憎くて憎くてたまらない嗚呼悔しい騙された殺してやるいつか絶対に殺してやる私が朽ちようともこの無念は決して殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺

「テンゾウさん!」

 半面の男が鋭く呼ぶ名に、声で直接頬を打たれたかのように目が覚める。
 眠っていた訳ではないが、突然意識が覚醒したのは確かだ。
 真っ先に目に入ったのはクナイ。
 テンゾウは簡素な木製の受付机に乗り、半面の男の首元、支給服の立ち衿ぎりぎりにクナイを突き付けていた。
 今の覚醒で手元が揺れたのか、僅かに切っ先が食い込んでアンダーの切れ目から素肌が覗いている。
 半面の男はクナイを突き付けられているにも関わらず、冷静に見返していた。
 静かな、凪いだ夜の海のような瞳。

「……申し訳ない」

 謝罪してクナイを引いても、男は面の奥からじっとテンゾウを見つめている。
 そして不意に立ち上がると、部屋の隅にあった木製の丸椅子を運んできた。

「大丈夫です。三代目と少し相談してくるので、こちらに座ってお待ちくださいね」

 たった今同胞から攻撃を受けたとは思えないほどの穏やかさでテンゾウに椅子を勧めると、男は右手の扉を開けて出て行った。やはり執務室とこの部屋は繋がっていたのか、というより三代目が在室だったのに、なぜ群青の部屋に通されたんだろうとテンゾウは訝った。
 もしこの部屋に通されず直接報告していたら、火影に攻撃していたかもしれない。結果的に三代目にクナイを向けた謀反人として処罰されるのは免れたが、それでも暗部専用受付の忍に攻撃したことに変わりはない。相談というのもきっと処遇についてだろうと神妙な面持ちで座って待っていたが、珍しく緊張で喉のひりつきを覚えた。
 目の前の机には男の飲み物か、いつものように水の入ったグラスが置いてある。少しくらいなら貰ってもいいかと、面をずらして一口含んで元に戻すとカチャリと扉が開いた。

「お待たせしました。三代目の許可を頂いてきましたので、あなたの処置をさせて頂きます」

 処遇ではなく処置という言葉に、まさかこの場ですぐ粛清されるのかと僅かに動揺する。
 この男に刃を向けるのはそれほどの大罪だったのか、せめて最期は忍として戦闘の中で死にたかったと思っていると、男は受付の椅子に座ると両腕を上げて半面の紐を解き始めた。

「あなたに今まで起きていたと思われる事と、これから見るもの、起きる事についてご説明しますが、よろしいでしょうか」

 半面を外した顔は、感情を表に出さない訓練を受けたテンゾウが思わず微かな声を上げるほど予想外だった。
 同い年くらいと見積もっていたのは合っていたようだが、何よりこの薄暗い部屋に似つかわしくない、男の朗らかな雰囲気に驚く。まるで室内に急に春の日が差したようだ。
 鼻筋を横切る傷痕が印象的だが、なぜかそれは威圧感ではなく愛嬌を感じさせる。いつも笑顔でいると思っていたのも気のせいではなかったようで、凛々しい眉の下には意志の強そうな、それでいて優しげな目がテンゾウを見返していた。

「あの、聞いてらっしゃいますか?」
「失礼しました、お願いします」

 どうやら粛清ではないらしいが、それより必要以上に男を見ていたことが気恥ずかしく、咳払いで誤魔化す。ついさっきまでこの爽やかな男を殺そうとしていたことが心底信じられないと思ったところで、今の状況を思い出した。
 鼻傷の男は椅子に座ると、真っ直ぐテンゾウを見て口を開く。

「私はイルカと申します。改めてよろしくお願いします」

 面を外した上に名乗られると思っていなかったテンゾウは、猫面の中で目を見開いた。面で素性を隠し無名だった者が、突然一人の男として存在を露わにしたことに戸惑いを隠せない。
 それにイルカという名にも、記憶の片隅で訴えかける何かがあった。
 その閃きに満たない何かに気を取られていると、イルカがにこりと微笑む。

「私の名は後ほど必要になるので覚えてください。それで先ほど私にクナイを向けた件ですが、こちらはあなたの意志ではないですね?」
「はい、もちろんです」

 命乞いをしようなどというつもりは一切なかった。
 今となっては突然イルカを殺そうとした事が、何より全く無意識の状態だった事が不可解でならない。
 それが伝わったというより、当然のことであるかのようにイルカが頷く。

「どうぞご心配なく。それが事実だと私は知っています。なぜなら、今のあなたは霊障下にあるからです」

 れいしょうか、とテンゾウは頭の中で復唱したが、適切な語句が思い付かなかった。
 だがイルカは構うことなく説明を続ける。

「先日の火の国での単独暗殺任務の後から、あなたの状態は変化していました。心当たりがありますよね? あの時私が『何かおかしな事はありましたか』とお尋ねしたのを覚えてますか?」

 報告書を提出した時のことを思い出したテンゾウが、小さく頷く。

「あの時あなたの腰辺りには、黒い『念』が憑いていました。取り急ぎ水で浄化しましたが、あまり効果は無かったようです。その点については、私の力不足で申し訳ありません。先ほども無自覚に同胞を攻撃する等、現時点であなたに相当な悪影響が見られますので、これからその処置を行わせてください」

 いきなり謝罪されて驚いたが、それよりイルカの言っている内容があまりにも現実離れしていて頭が追い付かない。
 念が憑いている、のところでようやくさっきの『れいしょうか』が霊障下かと予測する。
 霊障。
 すると処置とは、いわゆる除霊のことのようだと思い当たった。
 イルカにクナイを向けたのも、尋常ではない殺意と憎悪を感じたのも、悪霊に取り憑かれていたせいだと言われるとあまりにも荒唐無稽で、ストレス過多による錯乱の方がまだ信じられる。
 そこで先日の水をかけられたのは、辰が言っていたようなドジっ子だからではなく、浄化を目的としていたのかと気付いた。あの時は屯所でイルカを軽んじることを言ってしまったと、テンゾウは自分の浅慮を恥じる。目の前の事を額面通り受け取るなんて、まるで素人の振る舞いだ。ならば今も霊障なんてと鼻で嘲笑うのではなく、プロらしく振る舞うべきだ。
 急にはいそうですかとは鵜呑みにできないが、三代目のお墨付きでの浄化や処置なら受けざるを得ない。自覚もなくイルカにクナイを向けたのは、紛れも無い事実なのだから。

「よろしくお願いします」
「お任せください。と言っても、私はまだこの任については見習いみたいなものですが」

 照れ臭そうに笑うイルカに、疑念や諸々を吹っ飛ばしてまたもやぼうっと見つめてしまう。
 どうやらイルカの笑顔には、人を緩ませる効果があるらしい。こちらの方がよっぽど怪異現象だと、テンゾウは心の内で呟いた。

「それではまず注意点ですが、あなたはそこに座って、私が何をしても決して話しかけたり触れたりしないでください」

 きりりと顔を引き締めたイルカが真っ直ぐテンゾウを見つめるので、その真剣な様子にテンゾウも背筋を伸ばした。

「例外はただ一つ。私が先ほどのあなたのように異常な振る舞いをし始めたら、大声で私の名を呼んで、私の背中を強く叩いてください」
「それは……イルカさんが私を攻撃するような状態ですか?」
「そうです。通常なら私を簡単に制圧できるでしょうが、今に限って実力差は忘れてください。くれぐれも制圧しようと思わず、ただはっきりと私の名を呼んでください」

 あまりに事務的に淡々と事を進めるので、これが除霊だということをテンゾウは一瞬忘れていた。
 だが暗部の制圧が効かないと言われたことで、事態の異質さと深刻さを遅まきながら実感する。夜中に自室をうろつかれたり覗き込まれたりするのは実害もなく恐怖を感じなかったが、物理的な攻撃が効かないのは、力をもって戦う者には恐ろしいことなのだ。
 今まで任務で二度、テンゾウはそういう『モノ』と対峙したことがある。その時はどんな術も効かず、最終的にその道の専門だという者のサポートしかできなかった。あれは古の神の残滓だとか念の澱みとか言われたが、忍の術を全て封じられての戦闘は無力感だけが残ったのをよく覚えている。
 テンゾウは気持ちを改めて、神妙に頷いた。 
 それを受けてイルカが安心させるような笑みを返すと、ベストのポケットから竹筒を取り出す。
 栓を抜いて中身を掌に振りかけると、手でも洗うように両手に広げる。見た目からも匂いからも、ただの水のようだ。
 そして目を閉じると、胸の前で祈るように両手を合わせた。そのまま外側に手首を返し、揃った両の指先を下に向ける。
 見たことのない印だなとテンゾウがじっと見つめていると、不意にその手が解かれ、イルカが目を開けた。

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