【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
 

アカデミーで授業を終えた後、午後からの受付に入る。

「ようイルカ、昨日も人形だか何だかの捨てた奴は戻ってきたのか?」

隣に座る同僚のシメジが冗談めかして尋ねてきた。
まぁな、と軽く返事をすると、シメジはちょっと真面目な顔になって囁いてくる。

「お前、顔色悪いぞ。本当にヤバいならちゃんとお祓いもした方がいい」

自分で思うより影響が出ているらしく、心配してくれるシメジの存在が有り難くて「おう、サンキュー」とことさら明るく返した。
夕方になると、その元凶と言うべきはたけ上忍が七班を引き連れて姿を現す。
ぎゃいぎゃいと騒がしいナルトとサスケ、そのサスケだけに熱い視線を送るサクラ。怪しい上忍師の下でちょっと心配したが、みんな元気そうで良かった。

「こーら、受付で騒がないの。一人前の忍者はそんな事しないよ。ねぇイルカ先生?」
「そうだぞお前たち、回りを見てみろ。……お疲れ様です、はたけ上忍」

子供たちを介してだと、こいつとも話をせざるを得ない。
だが、あれだけ非常識なことばかりしてるわりには、意外にもちゃんと子供たちの面倒を見てくれてるようだ。いや上忍師なんだから当たり前なんだが。
自分たちが浮いていることに気付いた七班の面々は一旦は静かになったが、やっぱりナルトは長続きせず、報告書をチェックする俺の手元を見ながら今日どれだけ活躍したかを語り出した。

「だからさぁ、そこで俺がかっこよくガツーンとさ、火遁でやっつけてやったんだってば!」
「そんなもん使ったら馬が丸焼きになるだろうが、ウスラトンカチ」
「そうよ、だいたい今日の任務は犬五匹と山羊八匹と馬三頭の散歩だったでしょ」
「そりゃすごい散歩だったな。お疲れさん」
「じゃあイルカ先生、今日は飲みに行きませんか」

じゃあって何だよ。今の会話のどこにもじゃあって言う要素はなかっただろうが。

「あーっ、ずりぃってばよ! 俺も一楽行きたい!」
「いや俺は」
「そうそう、今日は大人同士の話だからね。お前はまた今度。ね? イルカ先生」

ね? ってお前もまた今度だよ。いや、また今度は社交辞令だから、今度は永遠にねぇよ。
心の中で反論するが、俺も模範的な中忍だから口に出すようなことはしない。この場ではな。
だが無視してるような態度がいけなかったのか、隣からガシッと足を蹴られた。

「もちろんですよ、はたけ上忍。イルカ如きでよろしければ、どうぞ大人同士で友好を深めてきてください!」

貴様~~~~! と裏切りやがったシメジを睨むが、さらに険しい形相で睨み返された。眼鏡の奥の笑ってない目が怖い。
シメジも模範的な中忍だから、上忍のお誘いを蹴るなんてとんでもないってところだろう。
舌打ちしたいのをぐっとこらえて、せめてもの抵抗とばかりに「まだ勤務時間が終わってないので、あと一時間はお待たせしますが」と言ってみたが、案の定「待つよ」とにこやかに返されてしまった。



勤務時間が終わり、ものすごく気乗りしませんという顔ではたけ上忍の前に立つと、優しげな笑みで迎えられた。

「どこに行く? 戻ってきたばかりで里のことはよく分からないから、お店は任せてもいい?」
「はぁ、じゃあ一楽……」
「居酒屋とかで。一楽じゃゆっくり話せないでしょ」

手っ取り早くラーメンとビールで済ませようという魂胆はあっさり見抜かれた。
それでも俺の魂の拠り所である一楽を挙げたんだから、かなり譲歩してやったのに。
上忍をご案内する店なんか知らねぇよ、と同僚とよく行く庶民的な居酒屋に連れ立っていく。
奥の衝立のある小上がりに落ち着くと、はたけ上忍は物珍しそうに見回して「いい店だね」と口布を下ろしながら微笑んだ。
とりあえずのビールで、乾杯もせずに半分ほど一気に呑む。

「……で、話って何でしょうか」
「そうねぇ。何を話す?」

お ま え が ! 誘ったんだろうが!!!
決めた。
今日はびた一文払わねぇ。上忍のぱんぱんな財布がぺしゃんこになるまで呑んでやる。
そう決意すると、店員さんを呼んで一番いい酒を持ってきてくれと頼む。

「あ、とことん呑むの? いいね」

お前の財布でな!
相変わらずにこにこしてる顔が蒼白になるのを想像して、思わず俺までにこにことしてしまう。
明日からの飯代にも事欠いて、もやし三昧の生活をすればいい。そうすればうちに手土産なんぞ持ってこれなくなるし一石二鳥。頭いいな俺!
「お待たせしましたぁ」と席に届けられたのは『埋み火』で、枡に注ぐとちらちらと金箔が揺らめいている。
まずはそのまま、と口を付けると、きんと締まった辛口の酒がすうっと喉を下りていく。華やかな香りが鼻を抜け、極上の酒が体内に広がっていくのをじっくりと味わった。

「イルカ先生は狗人だよね。なんで主がいないの?」

…………せっかくの美味い酒をまずくしやがって。
だが、どうせいつかは話すことになるだろうと思っていたし、話さないとこいつは納得しないとも分かっていたので、美味い酒の返礼として答える。

「俺は中忍です。中忍では上忍の任務で対等に組めません。狗人としては出来損ないなんです」

俺は中忍として誇りを持っている。
そして、アカデミー教師としても。
上忍試験を受ける前に進路を決めたから中忍のままだが、それでいいと思っている。アカデミー教師は上忍である必要はないし、上忍の任務の片手間にできる仕事じゃないからだ。
はたけ上忍は「ふぅん」と呟くと、手酌で注いだ酒を嘗めた。

「出来損ないっていうのは誰に言われたの? 前の主、それともハンドラーかコーディネーター?」
「……全部ですよ」

狗人の子は忍の心得の他に、狗人の心得もハンドラーに学ぶ。
そしてコーディネーターが主候補と引き合わせてくれるのだが、狗人にとって主は特別な存在だ。
親兄弟や恋人、伴侶や子供とすら一線を画し、唯一絶対の者になる。
あの九尾の災厄の後、俺は孤児になったこともあって早急に主を決めるべきだとコーディネーターに言われた。だがこの時は成長が遅くまだ未熟な狗人で、「この子はせいぜい中忍止まりだろう」と判定され、ろくに主候補を探してもらえなかった。
あの頃は里全体が混乱し、破壊と喪失に沈んで誰もが普通の状態じゃなかった。今思えば、それがあんな男が主候補に紛れ込めた理由だろう。
だからといって、あの男のやったことが許される訳でもないが。

「何それ、みんな見る目がないな。イルカ先生は出来損ないなんかじゃないのにね」
「主に噛み付くような狗は、理由がどうであれ出来損ないです」

そうだ。
たとえ戦地で敵に追われ、怪我をした下忍の子供と一緒に「ここで待て」と置き去りにするような男でも、主は主だ。
狗人にとって主の命令は絶対だ。
あれは当時中忍になったばかりの俺の、主と共に赴いた初めての戦地だった。
そこで俺は、足手まといと判断された子供と共に捨てられたのだ。
――信頼する主に。
待てと言われたのは洞穴ともいえないような岩の隙間で、敵の陣地にも程近く、見付かるのは時間の問題だった。
そこで俺は発熱した下忍の世話をしつつ、周囲の気配を常に探りながら、ひたすら息を殺しながら三日間『待った』。
僅かな水筒の水を下忍の子供と分け合い、小さな生き物の気配にも怯え、衰弱し朦朧とした頭で主に救援を求めるなとは言われてなかったことに気付いて、残り少ないチャクラを振り絞って式を飛ばした。
すぐに救援が駆け付けてくれたのと、あまりにも弱っていたせいか敵に感知されなかったのはただ幸運だった。
俺たちはすぐ里に送り返され入院したが、病院のベッドで三代目に主従契約の解消を申し出ると頷いてもらえた。その足で里に戻っていた主を探し、一発殴った。
「お前に主になる価値はない」と。
それで付いたあだ名が『猛犬』だ。
契約を解消したとはいえ、中忍が上忍を殴ったことに変わりはないので俺は減給処分を受けたが、後悔はない。今でも。
それから二十歳をとうに過ぎても新たな主人も見付けられず、相変わらず中忍のままの俺は狗人の中でも浮いていた。
三代目には上忍試験を受ける資格は十分にあると仰ってもらえたが、もうアカデミー教師としての道に進んでいた俺は丁重にお断りした。

「イルカ先生は出来損ないじゃない」

はたけ上忍の強い一言に、はっと我に返る。
もう何年も前のことなのに、しかもこの男の前で物思いにふけっていたことに、ちょっときまりが悪くなって酒をぐいと煽った。
埋み火はこんな風に呑む酒じゃないのに、ちくしょう。
だがやるせない気持ちはどうしても収まらなくて、ひたすら桝に注ぎ続けた。
ちらちらと揺らめく金粉が、どこにも持っていきようのない狗人としての小さな火の粉の燻りに見えてしょうがなかった。

「……俺はもう主は持ちません。これからも独りで生きていきます。俺なりのやり方で里と、里の子供たちを守っていく。それが俺の狗人としての生き方だ」

自分に言い聞かせるように目の前の男に向かって吐き出すと、また桝を満たした。