【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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何が起きたのか。
理解が追いつかなくてぼんやり見上げていると、はたけ上忍の手が高速で動いた。
その姿がぶれ、もう一人のはたけ上忍が現れて「あいつを捨ててくるから」と脱衣所を出ていく。
あっちは影分身か。印を組むスピードが早すぎて分からなかった。

「あの、早く任務終わらせ……終わったから来てみたんだけど……大丈夫? ケガはない?」

本体が俺の前にしゃがんで、気遣うように窺う。
急いで任務を終わらせて、いつも通り俺の家に潜り込もうとしたら先客がいたってところか。
普段だったら今日もこいつをゴミ捨て場に投げなきゃかよ……とがっかりしたところだが、今はおかげで助かった。

「もう大丈夫です。ありがとうございました」
「ここ。大丈夫じゃないよ、痣になってる」

俺の遠回しな出ていけという返事を綺麗に無視したはたけ上忍の指が、首元にそっと触れるか触れないかの所で止まる。

「服もぼろぼろだし」

ふと、抑えきれない何か、怒りのような感情が語尾に滲んだ。
はたけ上忍のそれに呼応するように、さっきの恐ろしさと無力感が甦る。
――怒るべきことだったんだ、あれは。
たとえ元主だとしても、上官だとしても、ウツボ上忍は俺の意思を完全に無視して暴力的に俺を狗にしようとした。
俺は怒って良かった。
なのに昔の忠誠心の名残がそれを邪魔する。
悔しい。ちくしょう、悔しい。
主無き猛犬と言われても、しょせん狗の習性には逆らえないんだ。
俺の無言をどう捉えたのか、はたけ上忍はウツボ上忍が落としていった赤い首輪を手に取ると、一瞬で消し炭にした。
……まただ。
また怒っている。
それにしても、なんでこいつの怒りが分かるんだろう。顔には全く出てないのに。

「なんであなたが怒るんですか。俺が不甲斐なくて弱いから?」

はたけ上忍がちょっとだけ目を見開いた。
やっぱり無意識だったんだな。

「ごめん、イルカ先生に怒ってる訳じゃない。ウツボの奴と、むしろ自分にだよ。……俺はいつも遅れる」

なんだそれ。
助けてくれたのは本当に有り難いが、あんたが責任感じる必要なんてないだろ。なんで俺の安全があんたの責任に入ってるんだよ。お前は俺の保護者か。

「首、手当しとこうか」

はたけ上忍が呟いて、腰のポーチから軟膏のチューブを取り出した。
その拍子にポーチから何かぼとりと落ちる。
何か――紺色の首輪が。

「それ……まさかあんたも俺を狗にっ!」
「っあ! これはその、そうだけど違う!」

慌てるはたけ上忍の隙を突いて素早く拾い上げると、その首輪はやけに古びて小さかった。
とても俺の首には合いそうにない、どちらかというと小型から中型犬のものに見える。
そういえばこいつは忍犬使いだったから、きっと自分の忍犬用のだろう。さすがに早とちりで疑って申し訳ないと返そうとすると。
革から提げられたネームタグの文字が目に入った。
『イルカ』
という、やけに拙く書かれた名前が。

「俺はこんなチビじゃないぞ!」
「当たり前でしょ! これは昔作ったのなんだから!」

昔……?
はたけ上忍がハッと息を呑んで気まずそうな顔をする。
今の反応がなければ、同じ名前の忍犬でもいたのかと思うところだが。
ふと、銀色の髪をした男の子の面影がよぎる。
俺よりおっきくて、いつも犬を連れて遊んでくれた中忍の……

「…………かぁし兄たん?」
「思い出したの⁉」

そうだ、かぁし兄たんだ。
白いたてがみみたいな髪のかっこいいおじさんと、いつも一緒にうちに来てた男の子。
犬たちと一緒に駆け回って、いろんなことをした。
まだ小さい子供の狗だった俺に、獲物の見つけ方や追い詰め方、危険の回避の仕方、主との連携方法を遊びながら教えてくれてたお兄ちゃんだ。
……あっ、そうか。だから居酒屋で素顔を見ても驚かなかったのか。あんなにナルトたちが騒いでいたのに。
どこか子供の頃の面影があって、俺は素顔を知ってたから。
飲み代だってそうだ。
いくら気に食わない奴でも、気に食わないからこそ普段の俺なら奢らせようなんて絶対思わないはず。幼馴染みのかぁし兄たんだからこそ、無意識に甘えが出てたんだ。
それに今朝方思い出した、あのおんぶされた記憶。

『俺、イルカの主になれるように頑張って上忍になるから』

あれは夢じゃなかったのか。

「かぁし兄たん、ちゃんと上忍になったんだなぁ」

思わず微笑んでしまうと、驚くほど優しく、そして切なげな笑みを返された。

「迎えに行けなくてごめんね」
「そんなの……子供同士の約束です。俺こそすっかり忘れて、別の上忍と主従契約を……」
「それはもういいの。あれから全然会ってなかったし、あの時イルカは急いで主を決める状況だったんだから、間に合わなかった俺が悪い。それにね」

かぁし兄たん――カカシさんが、紺色の首輪を俺の手からそっと取り上げる。

「子供の頃だけじゃなくて、イルカが前の主に待てって言われた時も。俺は別の戦地にいて知らなかったなんて、言い訳にもならないけど。……俺がちゃんと迎えに行きたかった」

そんなの。上忍として戦地を飛び回ってただろうカカシさんには関係ないことだ。
なのになんでそんなことを言い出すんだろう。

「だって、イルカは本当は待ってたかったんでしょ? 主が迎えにきてくれるのを」

……なんでそれを。

「イルカは狗人だもんね。主を待ってられなかったこと、ずっと気にしてるんじゃないかと思って。だから迎えに行きたかったんだよね。ちゃんと待てできて偉いね、って俺が言いたかった」

ずっと秘かに燻らせていた思いを一突きにされ、思わず歯を食いしばった。
じゃないと何か叫び出してしまいそうだった。もしくは泣いてしまうか。
俺は狗人だ。
狗人は主に絶対の忠誠心を持つ。
あの時。
俺は主を待っていなかった。命令されたのに。
あんな状況で何を馬鹿なことを、と人には言われるだろうが、それが狗人というものなのだ。
俺たちを見捨てたあの男は許されないが、同時に俺も主の命令を、絶対の忠誠を自ら破ってしまったのだ。

「俺は……待って、なかった……」
「それは主の命令が間違ってたんだよ。主は万能じゃない」
「それでも待つべきだった!」
「あの時は怪我をした下忍がいたんでしょ。忍としては正しい判断だった」
「俺はっ! 俺は本当は待っていたかった!」

もし下忍の子供がいなかったら、俺は愚直にずっと主を待っていただろう。
たとえ敵に捕まっても、俺は狗人として微笑みながら戦って死んだだろう。
それが狗人の喜びであり、誇りだから。
あの子供のせいにしたいんじゃない。その誇りを奪ったのは的確な命令をしなかった主だ。怪我をした仲間を見捨てるのは木ノ葉の忍として、何より俺が許せることじゃなかった。
主従契約を里長の命という形で解消した元主を俺は殴ったが、それは木ノ葉の忍としてだ。
狗人としての俺は、待てなかった自分をずっと許せないでいた。
だから俺は主を持つ資格のない、猛犬先生などと蔑称で呼ばれるに相応しい出来損ないの狗人なのだ。

「でも俺は出来損ないの狗人で……」
「イルカは愛情が強すぎるだけでしょ。今はアカデミーの先生で守る対象がいっぱいいて、どの子にも深い愛情をたっぷり注げる。それって群れを大事にする犬の立派な特性じゃない」

そんな風に言ってくれる人はいなかった。
今までずっと。

「だからこそ、イルカには主が必要なの。お前が安心して守ることに専念できるように。イルカ自身よりイルカを大事にする主がいないと」

……それはあんたにこそ言えるんじゃないのか?
じゃあ誰より強い『はたけカカシ』は誰が守ってやるんだよ。

「イルカは俺のこと覚えてないみたいだったから、主どうこう以前にまずは最初から関係を作り直して俺のこと知ってもらおうと思ってたんだけどね、なんかうまくいかなくて。好きになってもらうどころか、嫌われてばかりだったし」
「いきなりあんな風に家に居座ろうとするだけじゃ、ただの変な奴でしょうが!」

あれはそういうことだったのか。わっかんねぇ~~~!
うっかり何度もゴミ捨て場に捨てちまったじゃねぇか。
……って、

「す、き……?」
「気付いてなかった? 俺は初めて会った時から口説いてたよ、イルカ」

そういう告白をついでのようにするなよ!
初めて会った時って確か俺は三歳か四歳くらいか? カカシさんが何歳か知らないが、そんな小さい時からなんて。それに、えーと。

「あの……俺、男ですよ?」
「知ってるよ。一緒に川で泳いだじゃない」

知ってたのか。そりゃ知ってるよな! 今の俺を見れば一目瞭然だもんな!
カカシさんは小さい首輪をまたポーチにしまうと、ちょっと困ったような、もしかしたら泣くんじゃないかとこっちが不安になるような顔で俺を見た。

「あのね、俺は今もイルカを好きな気持ちは変わってない。主になりたいのも。だけどイルカはそうじゃないでしょ? もう主は持ちたくないって言ってたよね」
「ええ、……まぁ、そうです」

カカシさんは今度はにこりと笑うと立ち上がった。

「それでいいと思う。主がいなくても、イルカは立派な狗人だよ。里の子供たちを守って戦う狗人だ」

そして俺の頭をぽんぽんと撫で、「ウツボのことはもう心配いらないから」と告げると玄関から出ていった。
ガチャリとドアが閉まる。
そういえばこいつが玄関から帰るのは初めてだな、と座ったままぼんやり見送った。