【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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数週間に及ぶ昼と夜の訓練の成果があって、イルカはかなり上手にクロを乗りこなせるようになった。
 これなら一人で乗っても大丈夫でしょというカカシのお墨付きももらい、テンゾウの領地内なら一人で自由に出かけられることになって、イルカは毎日のようにクロに乗ってあちこち飛び回っていた。
 今日も今日とて忘却の泉の先まで遠征してきたイルカが自室のバルコニーに降り立つと、サスケが部屋の中できょろきょろと見回していた。イルカを探していたのか、その姿を見るとガラス扉を開け放って迎え、「出かけてたのか、帰ってくれて良かった」と敬語も完全に忘れ、珍しく動揺している。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「今誰も城にいないんだけど、客が揉め始めてるんだ。このままじゃ城を壊されてしまう。頼む、一緒に来てくれ!」
 そうまくし立てると、返事も待たずにイルカの手を引いて部屋から連れ出した。

 客とは誰を訪ねて来てたのか、城を破壊するなんてどんな恐ろしい魔物が来ているのかと内心ビクビクしながら一緒に走って行くと、サスケがプレイルームの前で立ち止まった。
 中からはガシャガシャンッ、ダダダッ、ゴウっと何が起きているのか知りたくないような音がしている。
 するとサスケが振り返り、「あんたならきっと止められる。頼んだぞ」と据わった目で懇願してきたので、思わず勢いに負けて頷いてしまった。
「失礼します! イルカ様がお二人にご挨拶をしたいって言ってるぞ……おります!」
 騒音に負けないくらいの大声を自棄っぱち気味に上げたサスケが、扉を開けた。
 イルカがその脇から顔を覗かせると、開いた扉に向かってバスケットボールくらいの火の玉が飛んできた。
 慌ててサスケを引っ張って抱えこんだが、しばらく待っても何も衝撃がない。
「おや、君が噂のイルカ君?」
 女性にしてはやや低く、熟した果実のようにねっとりとした声がイルカの頭に降ってきた。
 恐る恐る目を開けて顔を上げると、片側の頬から目元まで何かの紋様のある黒髪の長身の女性が、興味深そうにイルカを見下ろしている。
 その手からは黒い煙が上がっているのだが、まさか素手で火の玉を受け止めたのだろうか。
「あの、手……大丈夫ですか?」
「オビラプトゥールの火の玉なんて、仔竜のおままごとみたいなものだから」
「なんだとっ!」
 窓際に立っていたオビラプトゥールが吼え、再度火の玉を吐こうと口を開けたが。黒髪の女性のドレスの裾から、どこに隠れていたのか大蛇がオビラプトゥールの喉首めがけて飛びかかった。
「しゃらくせぇ!」
 オビラプトゥールの焔を纏った右腕が大蛇を両断したかに見えたが、大蛇は無数の蛇になってオビラプトゥールに群がり押し包んだ。
「ちょっと! 誰だか知らないけどやり過ぎだろ!」
 イルカが食ってかかると、「ずいぶん活きのいいコだね」とあごを持ち上げられる。その手は軽く掴んでいるようでもがっちりと力強く、イルカが両手で引き剥がそうとしてもできなかった。長い髪とドレスに見える服で女性だと思い込んでいたが、もしかしたら男性なのかもしれない。
「ふぅん、なるほどねぇ」
 顔を左右に振られ、品定めをされているようでイルカは抗議しようとしたが、間近に迫った美貌に言葉を飲み込んでしまった。
「ずいぶんとカカシも執着してるみたいだね。顔にこんな証まで刻んで……でもイルカ君はまだ人間みたいだね? たった数十年しか共に在れないから余計に執着するのかな」
「え、それはどういう……」
「いい加減にしろよアスタロト!」
 蛇の山をようやく蹴散らしてきたオビラプトゥールが、黒髪の魔物の手を掴んでイルカから離した。アスタロトと呼ばれた魔物は逆らわずにはいたが、オビラプトゥールの掴んだ部分からじゅうっと煙が上がり、肉の焼ける臭いが漂った。
「気軽に私に触れると危険だよ、竜の小僧。それとイルカ君、儚いものに惹かれるのは悪いことじゃない。カカシは繊細だからね。あとは……ヒトの匂いにノスタルジーを感じたのかな? でもイルカ君。人間は驚くほど儚い上に欲に弱い。キミはどうだろう?」
 そう言うとアスタロトはイルカの頭を引き寄せ、目を覗きこんできた。

《イルカ。私のところにおいで》

 それは耳から聴こえるというより、直接脳に注がれたかのようだった。
 だがイルカには単なる指示にしか思えず、「嫌です!」と押し退けるとアスタロトは馬鹿笑いを上げた。
「あははははっ! なるほどねぇ、キミもカカシに執着してるのか。私のドミネーションも効かないくらいにねぇ」
 そして急に真顔になると、今度は驚くほど優しい顔でイルカを見つめた。
「それなら尚更自分が人間で在り続けるかどうか、よく考えなさい。カカシと……キミ自身のためにもね」
 それからイルカの頭を撫でて微笑み、プレイルームを出ていった。
 するとサスケが入れ替わりに部屋に入ってきて、室内の惨状に呻き声を上げた。オビラプトゥールはというと、焼け焦げた右手を抱え、悔しげにアスタロトの去った方を睨んでいる。
「大丈夫ですかオビさん!」
「ああ、ちょっと奴の毒に焼かれただけだ。サスケ、氷を持ってきてくれ」
 サスケが頷き、部屋を出ていった。
 オビラプトゥールの右手は黒ずみ、袖口も一部焼け焦げてうっすらと煙を上げている。火ではなく毒でこんな風に焼けるなど、イルカは見たことがなかった。
「なんて酷い……」
「いや、奴の毒でこの程度ならたいしたことはないんだ。本気ならこの城ごと焼き溶かしただろうよ」
 そう言うオビラプトゥールの顔はすっきりしていて、さっきまで部屋中を荒らして争っていた相手に向けるものとは思えなかった。
「どうしてケンカしてたんですか?」
 不思議に思ったイルカが訊ねると、オビラプトゥールは顔をしかめた。
「いつものことだ。カカシを魔王にさせるかどうかだよ、イルカ。あいつはカカシをジジイ共の謀略に巻き込みたくないとか抜かしてるんだ。カカシはそんなぬるい奴じゃないのにな」
 イルカは言葉を失った。
 カカシがスケアを統合して完全体になったのだから、当然魔界もざわついていることだろう。いつかは答を出さなければいけないのだろうが、いや、もう答は出しているのかもしれないが。カカシが何も言わないので、イルカは二人で過ごす日々に流されてしまっていた。
「カカシは……魔王になるのかな」
「そんなもん奴の決めることだ。だが俺はなってもらいたいね。少なくともベルゼブブのクソ野郎よりは数倍マシだ」
 ベルゼブブ――
 イルカが記憶を探ると、人間界でクスリを使って魂集めをしていたというミズキの背後にいた男が甦った。
 確かにそんな手段を使うような魔物が魔王になるのは望ましくないだろうと、人間のイルカでも分かる気はする。魔界で過ごして初めて知ったのだが、魔物だからといって恐ろしい思想や堕落した思想の種族ばかりではないようだった。働き、子を育て、日々を過ごす。そんな魔物ばかりを目にしてきたように思う。
 もっとも、イルカはほとんどテンゾウの領地しか知らないのだが、更に深い階層はまた違うのかもしれない。
「そんなことより、お前はどうするつもりなんだ? いつまでも人間でいる訳にはいかないだろうが」
「……えっ?」
「さっきアスタロトも言ってただろう。俺たちと人間の生きる時間は全然違うからな。カカシを置いて自分だけさっさと逝くつもりか? それが嫌なら魔堕ちでも何でもして魔物になっとけよ。カカシもそのつもりがあるから、魔力を落とさないようあの姿のままでいるんじゃないのか?」



 荒れたプレイルームはそのままに、サスケから受け取った氷を当てながらオビラプトゥールは帰っていった。
 イルカの頭の中では彼に言われたことがぐるぐると渦巻いていた。
 『俺たちと人間の生きる時間は全然違う』
 『カカシを置いて逝く』
 『魔堕ちをして魔物になる』
 魔物と人間がそこまで寿命が違うとは、思いもよらないことだった。
 カカシを置いて逝くと断言するからには、魔物は遥かに長生きなのだろう。イルカは魔界でカカシと二人、共にいることを漠然としか考えてなかったことに気付く。魔物のことで知らないことはたくさんあるだろうが、寿命も、そもそもカカシの年齢や誕生日すら聞いていない。
 それにカカシを置いて逝くとは、こないだまでの自分のような思いをさせることだ。
 愛する人に――両親に先立たれ、独りぼっちになってしまった自分と同じ思いを。

 考え事に夢中になっていたイルカは、いつの間にか自室の扉の前まで来ていた。
 とりあえず部屋に入ろうと扉に手をかけると、カカシの部屋の方から何か小さな悲鳴のようなものが聞こえた。カカシが戻ってきたのだろうかと足をそちらに向け、ノックをして声をかけながら扉を開けてみると。
「うわ、えっ、イルカ?」
 壁掛けミラーの前に立っていたカカシが、両手をばたばたとさせ珍しく慌てた様子で振り返った。
 何か見てはいけないことをしていたのかと、イルカは謝って部屋を出ようとしたのだが、その時。
 カカシが着ている服が、いつもと違うことに気が付いた。
 胸元に飛び跳ねるイルカのワンポイントの入った、南国の海のような水色のパーカー。
「あれ? それ俺のパーカーじゃ……あああっ!」
「ごめん! イルカごめんね!」
 両手を合わせて必死に謝るカカシは、フードをかぶっていた。
 ――角の生えた、その頭に。
 正しい使用方法で着用されたパーカーは、角のある魔物向けには作られていなかった。
 フードを突き破った立派な角が二本、見事なまでに天を指していたのだ。
「それ……俺のお気に入りの、一張羅のパーカーなのに……」
「あのね! イルカの服が置きっぱなしになってて! ちょっと着てみたいなってズボってかぶってみたら、ズボっといっちゃって!」
 ごめんごめんと泣きそうになりながらカカシはパーカーを脱ごうとするのだが、角がフードと一体化していてなかなか引き抜けないらしく、顔の辺りでパーカーが巻き付いたままもがいている。
 イルカはショックのあまり呆然と眺めていたが、カカシの小さな子供みたいな様子を見ているうちに、とうとう吹き出してしまった。イルカは苦笑しながらもがくカカシの側に歩み寄った。
「カカシ、手が届かないからしゃがんで。それからバンザイして」
 たぐまったパーカーで周りが見えなくなっていたカカシは、イルカの指示におとなしくその場に座って両腕を上げた。イルカは突き出された両手の部分から、真上に引っ張りあげてパーカーを脱がせる。すると申し訳なさでいっぱいなカカシの顔が現れた。
「……ごめんねイルカ、これ大事な服だったんだよね」
「そうだけど、もういいよ。わざとじゃないんだから気にすんなって」
 カカシの可愛い一面が見られて嬉しかったから、とはさすがに言えなかった。
 いつも大人らしく余裕ある態度でしか接してくれないカカシの、焦る姿とのギャップがありすぎて、ざっくり空いたフードの穴を眺めながらもつい笑みを溢してしまう。
 大人なカカシで先ほどまでの考え事を思い出したイルカは、何気なく年齢を聞いてみた。
「そういえばカカシって俺より年上だろうけど、ホントは何歳なんだ?」
 するとへにゃりとしていたカカシの顔が、とたんに真顔になった。
「……なんで急に?」
 予想外の不穏な反応に、イルカは手にしたパーカーをぎゅっと握りしめる。
「急にっていうか、やっぱり気になるだろ? その、かっ、彼氏の年とか! 誕生日とか!」
 彼氏という言葉にカカシは目元を和らげた。
 イルカの面映ゆさが移ったかのように、少しはにかみながら立ち上がると、胸元に象牙色をした小さな牙のペンダントトップが揺れる。
「誕生日は九月十五日だよ。イルカは?」
「俺は五月二十六日だけど」
「あ、もうすぐなんだね」
「まぁな。まさか魔界で成人するなんてな~! じゃなくてカカシは結局いくつなんだよ」
 カカシは足元に目を落とすと、小さく呟いた。
「……七百歳くらい、かな」
「ななひゃく?!」
 予想だにしてなかった数字が飛び出して思わず叫んだイルカと、目を合わせないままにカカシは早口で続けた。
「そんな年とかどうでもいいじゃない。それより何だか騒がしかったけど誰か来てた?」
「あっ、オビさんとアス、アスタローさん? 黒髪のでかい人がケンカしてプレイルームを滅茶苦茶にしてったよ。それで二人に言われたんだ……お前は魔物にならないのか、って」
 それを聞いて、イルカが急にカカシの年齢に関心を持ち出した理由を察したのだろう。カカシはチッと舌打ちして小さく呟いた。
「オビトとアスタロトか……余計なことを」
「余計なって何だよ、大事なことだろ? なんで寿命のこととか教えてくれなかったんだよ!」
「それは……ゆっくり考えてもらいたかったからだよ。イルカはまだ魔界に来たばかりだ。急に生活が一変したのに、そんなことまで言ったら混乱するでしょ」
「カカシが俺を気遣ってくれたのは嬉しいけどさ、聞いたからにはちゃんと知りたい。だから教えてくれよ。俺だけじゃなくて二人のことだろ? 俺がカカシとずっと一緒にいるためには、どうしたらいいんだ?」
 イルカはそのために魔界に移り住むことを決意したのだ。何を言われても引かない心づもりで首を傾け、俯いたままのカカシを覗き込んだ。
 カカシは目を閉じて何かを考えていたが、顔を上げるとその緋色の眼でイルカを見返し、その肩に手を置くとソファーの方へ向けて軽く押したた。
「……長くなるからそっちに座って」



「俺たち魔物は、種族にもよるけど数百年から数千年を生きる。高位な魔物ほど長生きなんだ」
 カカシはイルカと並んでソファーに座ると、イルカの手をとって自分の膝の上で包んでから話し始めた。
「だから一日という単位ではそんなに物事を捉えないんだ。誕生日もあまり気にしないで、その年の始めに数えるくらいなんだよね」
「そう、なのか……」
 数百年でも驚くのに、数千年など途方もない年月だ。
 人間界での西暦が二千年であることを思い、イルカは気が遠くなった。
 それだけ生きていたら、確かにいちいち誕生日を祝う風習など面倒なのかもしれない。
 大きくなってからはたいしたこともしてないが、ミズキや学校の友達からはメッセージやプレゼントをもらうこともあった。それはハピバの一言や、コンビニのアイスだったりもするが。誰かに誕生日を祝ってもらえるというのは、誰かに誕生日を覚えててもらえるというのはやはり嬉しいものだ。
 そしてイルカには、秘かな夢があった。
 彼女ができたらどちらの誕生日も、絶対にまぁるいケーキでお祝いしようと。幼い頃に両親に囲まれて願い事をしながらロウソクを吹き消した、あの真ん丸なケーキでお祝いしたいとずっと心に決めていたのだ。
 彼女は彼氏になってしまったが、カカシとそんな風に祝えたらいいと思っていたイルカは魔界との風習の違いに落胆を隠せなかった。
「イルカ、どうしたの?」
「あ、うん……」
 こんな子供みたいな夢をわざわざ話すのは恥ずかしいと、とっさに誤魔化そうとしたのだが。
 カカシの深い緋色の眼で見つめられると、つい甘えたくなって全部話してしまった。
「……なんだ、それなら一緒にお祝いさせて? イルカが喜ぶことなら何でもしたい」
 嬉しそうにそうカカシに言われると、イルカはホッとした。
 些細な甘えでもカカシは決して笑ったりせず、心からの笑顔で受け止めてくれる。それはかつてのスケアを思い出させる笑顔だったが、きっと元々はカカシの持つ愛情表現なのだろう。
 イルカはカカシの肩に頭をもたせかけた。
 これからは二人で、互いの誕生日を魔界で祝って年を重ねていくのだ。
 そのためには――
「なぁ、カカシ。俺はカカシと同じ時間を生きたいよ。どうすれば俺は魔物になれるんだ?」
 カカシの膝の上で包まれていたイルカの手が、ぎゅっと握られた。
 すう、と息を吸う音が聞こえ、ゆっくりと吐く音と共にカカシの肩が動いてイルカの頭を揺らす。
「……うん、分かったよ。これから説明する」



 人間が魔物になる最も簡単で一般的なのは、オビラプトゥールの言っていた魔堕ちだ。
 堕落した魂を持つ者や絶望、欲望などを抱えた人間が魔物と契約をし、或いは魔物に唆されて魔物の使い魔になる。
「魔堕ちは確かに簡単なんだけど、使い魔程度にしかなれない。その後に高位な魔物になることはまずないし、寿命もそれほど長くはなれないんだよね。だから魔堕ちはしてほしくないんだけど……」
 カカシが言い淀んだので、イルカの手にも力が入ってしまう。
「じゃあ、他の方法は? 魔堕ちはってことは、他のもあるんだろ?」
「あるにはあるんだけど……実際にやったって話を聞いたことがない」
「……危険なのか?」
 するとカカシは困ったように眉尻を下げた。
「危険っていうより、そんな酔狂な人間も魔物もいなかったんだろうね」
「酔狂?」
 思いもよらない単語がカカシの口から出て、イルカは思わず頭を起こした。
「酔狂だよ。何かを抱えてる訳でもない綺麗な魂を持つ人間は、魔物になんてなりたがらない。魔物だってそんな大変な思いまでして、綺麗な魂の人間を魔物にしようなんて思わないからね。堕落させてから使い魔にしたり、魂だけをもらう方がよっぽど簡単だよ。イルカの友達の時のベルゼブブみたいに」
「大変な思いって、難しいのか……?」
 カカシの眉間にぎゅっと皺が寄り、険しい顔付きになる。
 だがそんな顔ですら綺麗なんだなと、イルカの頭に場違いな思いが浮かんで、つい見惚れてしまった。
「実はスケアに頼まれて、ずっとその方法を一緒に調べてたんだけどね。俺の力があれば出来るとは思うけど……前例がない。イルカは魔染めで俺の体液が常に体の中を巡ってる状態だから、普通の人間よりは適応しやすいし高位の魔物になれるとは思う。でもあくまでも文献に載ってる理論でしかないから、できれば俺は……やりたくない」
「そんな!」
 イルカは勢いよく立ち上がった。
「じゃあカカシは俺とちょっとしか一緒にいられなくてもいいのかよ! それだけの気持ちだったのか?」
「そんなことある訳ないじゃない!」
 カカシも立ち上がり、イルカの肩を掴んだ。
「だってもし失敗したら? 数十年どころか一瞬で終わりだよ? 俺はそんな賭けなんかしたくない! それなら数十年でも大事に一緒にいた方がよっぽどいい!」
 そしてイルカをかき抱くと、震えながら弱々しく囁いた。
「もう……大切なものをなくすのは……嫌なんだ……」
 その言葉はイルカの心の奥深くにざくりと刺さり。
 それ以上何も言えずに、ただ強く抱き返すことしかできなかった。

 その夜の魔染めはいつになく激しいものになった。
 イルカの中の奥深くまで穿ち、幾度も吐き出し、イルカがもうムリと懇願してもカカシは止めようとはしなかった。
 堪えきれず意識を飛ばしたイルカのぐったりとした身体を抱え、カカシはぴたりと肌を合わせて離れようとはしなかった。
 ――そのままひとつになろうとするかのように。
「俺だってイルカと長きを共にいたいよ……でも、………」
 カカシの呟きはイルカには届かなかった。