【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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「……バアル殿の話の半分は嘘だろうね」
 ソファーに寛ぎ、静かにカカシの話を聞いていたアスタロトが断じた。
 カカシの呼びかけでテンゾウの城に急きょ集まったアスタロト、オビト、そしてテンゾウがプレイルームで思い思いの場所に陣取り、カカシの第九十九階層での話を聞き終えたところだった。
「大魔王サタン様がナルトを御所望されたのは恐らく事実だろう。だが九柱にとまで仰るだろうか? 答は否だ。サタン様がそこまで大九柱如きに関心をお持ちとはとても思えない。たまたまナルトのことを思い出してお会いしたいと仰るサタン様の気紛れに、バアル殿が便乗したように私には思えるね」
 するとテンゾウが深いため息をついた。
「ああ見えてバアル殿はカカシ様が大のお気に入りですからねぇ……これを好機と捉えて無理難題を吹っ掛け、九柱の座を断れないようにしたんでしょう」
「九柱どころか四柱にと言ってるくらいだからな。バアルのジジイは好かないが、イルカを使うところといい、詰め方は悪くない」
 バアルと同じくカカシを魔王にしたいオビラプトゥールが、カカシにニヤリと笑いかけた。
 そのしたり顔にカカシが渋面を返しながら人差し指を向ける。
 すると指先から白光の細い稲妻が飛び出し、オビラプトゥールの髪を直撃して毛束の一部を焦がした。
「あっ、カカシお前! 俺様のステキな黒髪に何を!」
「オビト如きがイルカと同じ黒髪なのが前から気に食わなかったんだよね。いい機会だから丸坊主にしなよ。おまえならなんでもすてきだよ」
 最後の部分は露骨に棒読みだったが、オビラプトゥールは「そうか?」と満更でもなさそうに髪をかき上げた。
 二人の様子に生温い視線を投げかけたアスタロトが立ち上がると、窓の外を眺める。イルカがそれをなんとなく目で追っていると、アスタロトの片側の頬から首元にある紋様が動いたように見えた。気のせいかとじっと目を凝らすと、紋様はしゅるりと肩の方へ移動していく。
「……わ、動いた⁉」
 思わず声に出してしまうと、隣のカカシがイルカの目線を追って苦笑した。
「アスタロトは体の表面に蛇を飼ってるんだよ。けっこう強い毒を持ってるから触らないでね。というかどんな理由であれ、他の男に触らないでね」
 そう言うとイルカの肩を抱き寄せて頬にキスをした。
 相変わらずの独占欲にイルカは呆れた顔を向けたが、それよりもアスタロトが男だとやっと分かったので、改めてじっと見てしまった。
 例の魔界で一番人気だという百ソウル金貨に描かれていた彼の横顔はもっと凛々しかったのに、以前この部屋でオビラプトゥールと喧嘩していた時も今回も、どことなく女性らしさがあって別人のようだ。
「なぁ、アスロットさんってやっぱり男なんだよな……?」
 イルカが声を潜めてカカシに問いかけると、アスタロトがくるりと振り返って微笑んだ。
「性別的には男だよ、イルカ君。でも普段は金貨の者だと分かると何かと面倒だから、少しだけ目眩ましをしてるんだ。キミにはドミネーションが効かなかったから私の支配は通用しないと思ってたけど、ちゃんと女に見えているみたいだね。あと私の名前が覚えにくいならタリーと呼ぶといい」
 驚いたイルカは、またしても名前をきちんと覚えられないことを赤面しつつ謝罪してから、今度は正面からまじまじとアスタロトを見た。
 彼は足元まで覆う深いワイン色のハイカラーのドレスのような衣装をまとっていて、性別のはっきりしない服ではあるが女装という訳でもなく、仕草や喋り方が女性のように見える。だがそれも言われてみれば前回よりは男のものに思えるし、体格などは細身でも完全に男だ。そもそも目眩ましということは、これはアスタロトの真の姿ではないのだろう。
 それもドミネーションとやらの効果なのだろうが、いつの間に怪しげな魔法を使われたのかとイルカは首を傾げた。
 するとカカシが突然イルカの両目を覆って、視界を遮ってしまった。
「もうっ、アスタロトばっかり熱く見ないでよ。あいつはあの魔力で他人の意思を操ってるだけなんだからね。それともイルカは金貨になるような優男が好きなの⁉」
「なっ、だから違うって! 優男ってんならカカシの方がよっぽど美人だろ⁉ 男にも女にも見えるって不思議だなって思ってただけだよ!」
「俺の方が美人って……。え、男にも? イルカにはあいつは女に見えてないんだ?」
 美人と判定をされて微妙な顔をしていたカカシが、イルカの両目を塞いでいた手を外して驚いたように問いかける。
「えっと、うん……どっちでもありって感じだけど、今日はどっちかって言うと男に見えるかも。……これってまずいのか?」
 カカシはそれには答えずしばらく考え込んでいると、おもむろにテンゾウを呼んだ。
「テンゾウ、ちょっとあれ出してみて」
 呼びかけられたテンゾウは、突然言い付けられたにも関わらず質問の一つもせずに立ち上がると、何かを呟きながら自分の半円型の古木のような角をするりと撫でた。
 すると角から一粒の胡桃のような実が転がり落ち、ぱかりと自ら割れて芽を出した。それはみるみるうちに一本の木となりテンゾウくらいの丈に成長して左右に二本の枝を生やし、徐々に色が変わり始めたと思うと。
 次の瞬間には、寸分違わぬテンゾウの姿になった。
 その一部始終を瞬きもせずに見守っていたイルカは、二人並んだテンゾウに思わず歓声を上げてしまった。
「それでイルカ、どっちが本物か分かる?」
「えっ、だって右が木からテンゾウさんになった方だろ? ……あれ?」
 イルカがカカシに顔を向けた隙に素早く移動したのか、もう一度見た時には二人のテンゾウは見分けが付かなくなってしまっていた。
「ええ~? ううん、こっち? いや、なんかどっちも同じか?」
 イルカが難しい顔をして唸っていると、カカシはオビラプトゥールにも尋ねた。
 たいして見もせずに「左だな」と即答するオビラプトゥールに、カカシは「勘じゃ意味ないでしょ」と切り捨ててアスタロトにも片眉を上げて問いかける。アスタロトはにこりと微笑むと、腕を上げて本物を指差そうとしたが。
「イルカ、どうしたの⁉」
 驚いた声でカカシが腕を掴んだので、全員がイルカを見た。
「うわ、お前びしょ濡れじゃないか」
 オビラプトゥールの言う通り、イルカは全身が水を被ったように濡れていた。
 突然の珍事にイルカが自分の体を見下ろすと、その間に水はすうっと消えていった。ぐっしょりと髪を濡らしていた水分までも、まるで砂漠に降った雨が跡形もなく砂に吸い込まれていくように。
「……何だったんだ?」
 イルカが呆然と呟くと、カカシはイルカの着ている服の背中側をたくしあげた。
 すると背中の六花結晶型の紋様に、最後の水が吸い込まれていくところだった。
「イルカ、今かなり集中してたよね? もしかしてそれに呼応して魔力が目覚めかけてたのかも」
 その言葉でイルカは慌てて顔や体を触って確かめたが、特に変わった所はないように思える。目が合ったアスタロトが肩をすくめて応えたところをみると、外見の変化はないのだろう。
「う~ん、アスタロトのことが女に見えてないなら、イルカの魔力はけっこう高いと思うんだけどなぁ」
 イルカの服を戻しながらカカシが呟いた。
 すると暖炉の方から「イルカ様の魔力はなかなかのものですよ」という声がして、ロッキングチェアがむくむくと姿を変え、テンゾウが現れた。
 その傍らのワゴンで軽食の仕度をしていたサスケが驚いて飛び上がり、オビラプトゥールからは「やられた……」と悔しそうな呟きが洩れる。
「イルカ様は迷っておられましたね。そしてどっちも同じかと仰ってましたが、それが正解です」
 テンゾウが指をパチンと鳴らすと、並んで立っていた二人のテンゾウが一本の木に戻った。
「僭越ながら私の木分身は、公爵レベルの方でも見分けが付きません。それを見抜いたイルカ様は、目覚めてないながらもかなりの魔力をお持ちかと」
 テンゾウの言葉でまたしても全員の強い注目を浴びたイルカは、たじろいで一歩下がってしまった。
「これでイルカも立派な戦力になることが証明されたな」
 オビラプトゥールに当然のように笑顔を向けられ、イルカはますます動揺してさらに一歩下がる。
 だがカカシの「戦力なんてとんでもない!」という叫びで、逆に冷静さが戻ってきた。そもそも守られているだけでなくカカシを守るために、何かあった時には共に戦うために魔物になる道を選んだのではなかったか。
 まだ魔物としては不完全でも、その意志だけでも表明しようと口を開きかけると、カードテーブルに戻ってきたテンゾウに先を越された。
「……で、結局カカシ様はどうなさりたいのですか?」
 それを機に全員がまた各々の席に着く。
 カカシはチラリとイルカを見ると、背もたれに寄りかかってため息をついた。
「……我儘を言うようだけど、やっぱり九柱には就きたくない。魔王なんかなったら下らない権力争いで忙しくなるでしょ。かといって九尾の再封印を一人で出来るとも思えないし、イルカを代わりには論外。できれば九尾の竜を目覚めさせることなく、封印媒体の子を引き剥がせないかと思ってる」
 集まった本来の議題に戻ったはいいが、その問題の大きさに改めて全員が重い沈黙に包まれた。
「たとえ話の半分は嘘だったとしても、大魔王サタン様の名を出されたからには、少なくともナルトは連れてこなきゃならないでしょうね」
 テンゾウがいつにない険しい顔で一人言のように呟く。
「ダンタリオスが生きていれば問題ないんだけど」
 皆が同様に難しい顔を付き合わせる中、アスタロトが唐突に九柱の名を放り込んだ。
 ダンタリオスは魔界大九柱の中では最も弱く、その座に相応しくないという他の魔王の誰かに秘かに消されたとも、九柱入りを目論む魔物に殺されたとも囁かれていた。
 だがその後も新たな魔王の名乗りを挙げる者もおらず、九柱は空席のまま今日まできていたのだった。
「奴は死んだんだろ? って言いたいところだが、無数の顔を完璧に使い分けるからな。今頃綺麗なネェちゃんの姿でバカンスでもしてるんじゃないか」
 オビラプトゥールが羨望のこもった声でぼやくと、カカシが「それはオビトの願望でしょ」と鼻で笑ってテーブルに身を乗り出した。
「ま、とりあえず九尾の竜とやらを一回見てくるよ。相手がどんなだか分からないと、案も立てようがないからね」
 九尾の竜の災厄の頃には、この場にいる誰も生まれていなかった。
 話として聞いてはいたが、実際に遭遇したことがある者は現九柱の中でさえバアルとアスモデウスくらいしかいない。あとは皆災厄の時に戦死したか、その後の数万年の間に亡くなってしまっていた。
「だけどな、そもそも氷炎の洞穴ってどこにあるんだ? 俺は封印された九尾の竜なんてお伽噺だと思ってたぞ」
 オビラプトゥールがぶつぶつ言いながら隣の空いた椅子に足を乗せた。
 それをテンゾウが見咎めて眉をしかめると、飲み物をサーブしていたサスケにオットマンを持ってくるように手で指示をする。
 するとそれまで静かに動いていたサスケが、遠慮がちに口を挟んだ。 
「……あの、俺……私ならご案内できますよ」
 全員がサスケを注視する中、テンゾウが主人然と訊ねた。
「サスケ、それはどういうことかな?」
 以前よりだいぶ敬語を上手に使えるようになったサスケが、全員の真剣な注目を浴びて緊張しながらもはっきりと答える。
「うちの一族は、昔からその氷炎の洞穴のある境界の警備と九尾の監視を任されているんです。境界を通るには手続きが色々と面倒なんですが、私が一緒なら大丈夫だと思います。今の警備隊長は父上なので」
 偶然というには出来すぎている話だった。
 昔話どころかお伽噺とも思われていた九尾の竜への思わぬ近道に、カカシを始め皆が顔を見合わせる。
 恐らくバアルはそこまで把握して、カカシにナルトを連れてくるよう命じたのだろう。大魔王サタンの下命とカカシの九柱入りという己の願望を見事に組み合わせた、よく出来た話だと唸らざるを得ない命令だった。
「九尾の見物なら俺も行くぜ。同じ竜族なら見てみたいしな」
 オビラプトゥールの一言を皮切りに、他の者も頷いて賛同を示す。
 だがイルカもそれに加わると、カカシがガタンと音を立てて立ち上がった。
「イルカはダメに決まってるでしょ!」
「なんでだよ! 俺だってこの話に名前が出てるんだぞ? 当事者なんだから行く権利があるに決まってるだろ!」
 イルカも負けずに立ち上がり、至近距離で睨み合った。
「絶対ダメ。封印されてても何が起きるか分からないんだよ? そんな危険な所にイルカを連れてける訳ないじゃない」
 俺たちはいいのか? というオビラプトゥールの呟きは見事に無視された。
「いつまでも赤んぼみたいな扱いするなよ! 俺だってもう立派な魔物なんだからな!」
「幻獣化もしてない不完全な魔物なんだからダメ!」
「不完全って……俺のことそう思ってたのか⁉」
「言い方は悪かったけど事実でしょ。そんな不安定な状態で九尾の竜の所には連れていけない」
「それじゃ意味ないだろ⁉ 俺が何のために魔物になったと思ってんだよっ」
「同じ時間を一緒に過ごすためでしょ。少なくともイルカに守ってもらうためじゃない」
「俺はカカシ、お前の隣に立ちたいから……!」
 サスケを含む全員が二人の応酬を興味深そうに眺めていたが、きりがないと判断したのかアスタロトが割って入った。
「イルカ君は連れていこう。テンゾウの言うように魔力も悪くはないみたいだし、当事者の意志は尊重すべきだよ。それに……イルカ君はいた方がいい予感がする」
 過去と未来を見通す力を持つアスタロトの『予感』は、さすがのカカシでも聞き流すことはできなかった。
「…………分かった。今回は下見だけだしイルカも連れていく。でも絶対に俺から離れないでね」
「やった! カカシありがと! あとアス、アスローじゃなくて、えっと」
「タリー」
 アスタロトがにこりと笑みを返す。
「そうだ、タリーさん! ほんとにありがとう!」
 喜びも露わに飛び上がるイルカを尻目に、憮然としたカカシが椅子に座り込む。
 その様子をニヤニヤと見ていたオビラプトゥールの黒髪の毛先がまた一ヶ所、細い白光の稲妻と共に消え失せた。