【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
 

 圧倒的な水流に巻き込まれもがいている内に、気付くと水は消え失せてカカシは固い地面に転がっていた。
 起き上がって周りを見渡すと、そこは洞穴の外の丘陵地帯だった。振り返ると、洞穴の入り口が何事もなかったかのように大きな口を開けている。
 遠くにアスタロトが、その手前にはオビラプトゥールがキョロキョロと辺りを見回していて、やはり押し流されてしまっていたようだ。
 ――イルカは⁉
 水龍も人魚も、人型の姿さえ見当たらないことに、カカシの全身の毛が逆立つような恐怖に襲われた。
 崩れそうな足を叱咤して洞穴へ駆け出そうとすると、入り口の奥から何か黒っぽいものがふよふよと漂ってきた。
「………イルカっ!」
 その黒っぽいものは人魚の姿に戻ったイルカだった。
 イルカは気を失っているのか、まるで水面に浮かぶようにあお向けになって尾びれを揺らめかせながら、洞穴の入り口から外へと漂い出てきていた。
 気が急いたカカシは背に漆黒の翼を広げると、ひと飛びにイルカの元へ向かって空中から抱き下ろす。
 頬を軽く叩いて名を呼びかけても目を覚ます様子は見られず、震える手でイルカの口を開けさせると、唇を合わせて自分のエナジーを流し込んだ。
「大丈夫だよカカシ、急激にエナジーが減って気絶しているだけだ」
 二人の姿を見付けて駆け付けたアスタロトが、カカシの肩に手を置いて優しく微笑んだ。
 見上げたカカシは何度も頷くと、またエナジーを注ぐ作業に戻る。
 するとその場に影が差し、半人半牛の大型の魔物が覗きこんできた。
 がっしりとした体躯がうっすらとブラウンベージュの被毛に覆われ、大地を疾走するに相応しい蹄と天を差す雄々しい角を持つ魔物は、サスケを小脇に抱えていたので鼻筋の伸びた顔立ちでもすぐにイタチと分かった。
「一族に知らせようとしたら、洞穴から大量の水が溢れ出すのを見て戻ったのですが、あの、これはいったい……九尾の竜は?」
 サスケを抱えたままのイタチがひどく困惑した体で訊ねても、誰も答えられる者はいなかった。
 ようやく合流したテンゾウとオビラプトゥールが、カカシの肩越しにイルカを覗く。
「これとさっきの水龍がイルカの幻獣化か? 九尾の奴と何かやってたよな。あれは何だったんだ?」
 オビラプトゥールの呟きに答えられる者もまたいなかった。
 沈黙の中ひたすらエナジーを注ぎ続けていたカカシは、イルカの頬に赤みが差すのを見て肩の力を抜いた。
 すると皆の背後から子供の声が割り込んできた。
「……なぁなぁ、その兄ちゃん大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫だと思う。あとは目を覚ませばね」
 カカシが顔を上げて答えたが、ふと、それがサスケの声ではないことに気付く。他の者も同じことに思い至ったらしく、一斉に振り返るとそこには。
 九尾の竜の腹に封印されていたはずの子供が、裸で心配そうにイルカを見つめていた。
「お前、封印媒体の…………ナルト⁉」
「なんで一人で? 九尾は⁉」
「封印が解けたのか?」
 皆が一斉に口々に疑問を乗せて責め立てると、その子供――ナルトはびくりと体を揺らして後ずさりした。
「キュービって何だよ。俺はナルトだってばよ」
 するとかすかな呻きと共に、掠れたイルカの声が割って入った。
「……そんなに責めないでやって下さい。ナルトなら大丈夫だから」
「イルカ! 大丈夫なの⁉」
 カカシがそっと頬に手を当てると、イルカはその手を掴んで体を起こした。
「うん、心配かけてごめん。……えっと、よく分かんないけど、九尾の竜はナルトの腹ん中にいるんだって。なんかナルトが外の世界を見たいとかで、俺がちょっと手伝って九尾の竜が封印を……逆転させた? みたいで」
 イルカの大雑把な説明に、その場の全員がナルトの裸の腹をまじまじと見つめた。
 言われてみればナルトの腹には、複雑な呪式の封印を示す紋様が渦を巻いていた。
「封印媒体の子に外の世界を見せたい……そんな理由で?」
 イタチが呆然と呟く。
 今まで数万年に渡り一族が監視し続けてきた九尾の竜に、そんな願望があったなどと思いもよらなかったのだろう。しかも魔力の程度もはっきりしないイルカの手助けだけで、自ら封印を逆転するという離れ業を簡単にやってのけている。イタチは改めて九尾の竜の強大な魔力に恐れをなし、蹄の音を立てないようにそっと後ずさって一族に報せに行こうとした。
 するとその足が凍りついたかのように、その場に縫い止められてしまった。
「でっかい兄ちゃん、クラマは俺の中にいれば何にもできないからさ。頼むからナイショにしてくれってばよ。なぁ、お願いだよ!」
 可愛い弟サスケと同じくらいの年頃のナルトに手を合わせて頼まれ、イタチは唸り声を上げた。とりあえず自分の意見は保留にして、この場の成り行きを見守ろうと皆の顔を見回す。
「でもよ、どっちみちコイツはバアルの爺さんのところに連れてかなきゃならないんだろ? 九尾の封印をどうにかする問題もなくなって万々歳じゃないか」
 晴れやかな顔で言うオビラプトゥールに、アスタロトが冷ややかな目線を向けた。
「バアル殿は九尾の竜まで連れて来いとは仰ってなかっただろう。災厄をもたらした張本人を軽率に世に出す訳にはいかない」
「この子の大丈夫も、どこまで信用できるか分かりませんしね」
 テンゾウも眉間に皺を寄せて同意を示し、旗色の悪さを感じとったナルトがくしゃりと顔を歪めた。
「でも……だって俺、クラマからいろいろ聞いて、外の世界を見てみたくなったんだってば……それってダメなのかよ。またあの暗いとこでずっと……ずーっと閉じ込められるのは、もうやだってば……」
 するとイルカが空中をすいと泳いでナルトを抱き寄せた。
「心配すんなナルト! お前は俺が守ってやるからな!」
「何言ってるのイルカ!」
 カカシが慌ててナルトから引き剥がそうとしたが、イルカが固く抱きしめたままだったので結果的にナルトごと引き寄せることになってしまった。ナルトだけなんとか離そうとしても、ナルトもイルカの胸にべったりと張り付いているので、引っ張っても押し退けようとしてもなかなか離れない。
「こんのクソガキィ~~っ、イルカから離れろ! イルカの胸は俺のものなの!」
「やだってばよ! イルカ兄ちゃんはいいって言ってくれてるんだからな!」
「こんな子供に何してんだよ! だいたい俺の胸は俺のもんだっ」
 すると三人で団子になって争っている様子をじっと見つめていたアスタロトが、おもむろに口を開いた。
「凄いな……見た感じでは、本当に九尾の竜は上手く封印されているように見えるね。あれを自ら……。だけど、これならこのままバアル殿のところに連れていってもいいんじゃないかな」
「はぁ⁉ 今はそういう問題じゃないの! このクソガキをイルカから剥がすの手伝ってよ! テンゾウ!オビトも!」
 突然の指名にテンゾウが戸惑った顔をイルカに向けると、形勢の不利を察知したイルカが必死にカカシに語りかけた。
「カカシ……ナルトは生まれてからずっと一人だったんだぞ。あんな暗い場所で、クラマ以外の誰にも話しかけられず、誕生日すら祝ってもらえず……。こんな子供がそんなの絶対ダメだ。なぁ頼むよ、俺たちのところに連れてってあげようよ」
 今にも涙が溢れそうに揺らぐ黒い瞳で見上げられ、うっと詰まったカカシの手が止まる。
「………ダメだ。イルカに危害を加えようとした者を腹に飼ってる奴なんて、たとえ子供でも一緒に暮らせる訳がないでしょ」
 カカシの言葉に、イルカの胸にしがみついていたナルトが顔を上げた。
「あれはイルカのゲンジュウカをうながしてやったんだって、クラマが言ってるよ。うながすって分かんねぇけど、悪いことじゃないんだろ?」
 思いがけないナルトの言葉に、再び一同の鋭い視線が集中する。
 たじろいでますます強くイルカに抱きつくナルトに、テンゾウが身を屈めて訊ねた。
「さっきからクラマクラマって……もしかして九尾の竜のことかい?」
「そうだってばよ! イルカの中で魔物のサイボウのヘンカン? ってのがうまくできてないみたいだったから、助けてやったんだってクラマが言ってるよ」
 ナルトのたどたどしい説明が皆の頭に染み込むまで、数分を要した。
 ということは、九尾の竜クラマは何も知らない赤子だったナルトに世界を教えて聞かせ、その世界を見せるために自らをナルトに逆転封印し、さらには上手く幻獣化できないでいたイルカを手助けしてやったことになる――クラマの言葉を信用するならば。
 魔界でも伝説となるほどの災厄をもたらした九尾の竜が、そこまでお人好しなものだろうか。
 イルカとオビラプトゥールを除く皆の頭に同じ疑問がよぎったが、現にクラマはおとなしくナルトの腹に収まっており、その強大なはずの魔力も微塵も感じさせないでいる。一連の出来事はクラマが再び世に戻るための計画なのかもしれないが、ならば洞穴で自ら封印を解けたのだから、始めからそうすれば良かった話だ。世間を騒がせないように逆転封印をできる機会を待っていたのだとしたら、クラマの性格はあまりにも伝承との落差が大きすぎる。
 続く沈黙の中、アスタロトが大きなため息をついてから一つ頷いた。
「もう封印は解けてしまったのだから、しょうがないだろう。九尾の竜――クラマといったね、彼がこの子に逆転封印された状態でいるのは、むしろ僥倖と言うべきだと私は思うよ。ナルトはイルカ君になついてるみたいだから、カカシもしばらく様子を見たらどうかな」
 アスタロトの結論に、イタチも同意して頷いた。
「単に封印が解けただけなら、災厄が繰り返されていたかもしれません。一族にも状況を説明すれば理解を示してもらえると思います。もちろん大魔王サタン様への報告はしますが」
「そんなこと言って、イルカに何かあったらどうするの⁉」
 カカシの緋色の目が怒りに燃え、アスタロトに食ってかかった。
 だがアスタロトはいとも冷静に穏やかな声音で返す。
「九尾の封印が解けてしまった今、これがベストなのはカカシも分かっているだろう? 望みが果たされないとクラマがどう出るか分からないし、幸いにも私たちには何かあっても、大魔王サタン様ほどではないにせよ一時的ならそれなりの対処ができる力がある」
「でもこれから一番クラマに近くなるのはイルカだ! 何かあってからじゃ遅いんだ!」
 そう叫んで抱えたナルトごとイルカを抱きしめる姿は、まるで雛鳥を必死に守る母鳥のようだった。
 そんなカカシをアスタロトはじっと見つめ、それからイルカをも見つめてから、駄々をこねる子供に言い聞かせるかのように教え諭した。
「……魔力の大きさだけが全てじゃないよ、カカシ。現にクラマは逆転封印の手助けに、他の誰でもなく未覚醒だったイルカ君を選んだ。イルカ君にはイルカ君だけの力と守り方、戦い方がある。イルカ君が大切なのは分かるけど、過保護ばかりはいけないよ。キミはそれを少しきちんと考えた方がいい」
 この中では最年長のアスタロトにたしなめられ、カカシは押し黙った。
 カカシの不安は一見もっともだと頷けるところもあるが、その奥底には未だにイルカを対等な立場の恋人ではなく保護対象として見ていることをアスタロトは見抜いていたのだ。そしてそれにイルカが反発して、二人の間がギクシャクしていることも。
 項垂れてしまったカカシに、イルカは何か声をかけようと口を開きかけたが結局やめて、肩に届かないくらいの身丈のナルトの手を握ると結界の外へと歩き出した。
 正確には泳ぎだした、だが。
 緑溢れる丘陵にゆらりゆらりと揺れ動く尾びれを、カカシは黙って見送った。