【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 どんどんと叩かれる扉の音で、イルカは眠りの淵から急速に浮かび上がった。
 部屋の扉の方に目をやると、すでに服を着たカカシが「誰?」と声をかけている。
「俺だってばよ、ナルト! イルカ兄ちゃんがここにいるって聞いたからさ」
「ナルト?」
 イルカは慌てて周りを見回したが、人魚から人型に戻ったのでそもそも脱いだ服がないことに今さら気付いた。そういえばカカシは幻獣化して戻ってもちゃんと服を着てたよな? と疑問に思いながらも、とりあえずカカシの服を漁って羽織る。
 それを肩越しに確認したカカシがようやく扉を開けると、ナルトが飛び跳ねるように入ってきた。
「イルカ兄ちゃん、やっと会えたってばよ!」
 がばっと飛び付かれながらそう言われて、イルカは城に戻ってからナルトをほったらかしにしていたことに思い至った。
「あー、ナルトごめんな、俺もその……ちょっと忙しくて」
「そうそう、イルカは忙しいの。お前はサスケと遊んでなさい」
 イルカに抱き付いたままのナルトを、カカシがべりっと剥がす。
「カカシ! まったく……。で、ナルトは今までどうしてたんだ?」
「そのサスケとかいうヤツに城を案内してもらってた。あいつホントに生意気な! あとなんかあいつの兄ちゃんもくっついてきてさぁ、兄弟っておもしれぇな!」
 ナルトの素直な感想に、二人は顔を見合わせて苦笑した。
 イタチはサスケのことになると、カカシに負けないほどの溺愛っぷりを見せる。それは境界の洞穴からの帰り道で数日間続いていたから、皆が二人の攻防を生温い目で見守っていたのだった。年の離れた弟が可愛くて仕方ないのだろうが、年頃のサスケの気持ちも分かる。そして年が近いからこそ反発し合いながらも、相手が気になってしょうがないナルトとサスケのことも。
 外の世界を知りたいと封印から飛び出したナルトには、大人ばかりが構うよりは同じ目線でぶつかり合える者がいた方が窮屈さを感じずにすむ。
 サスケが境界の洞穴への案内役として同行したのは、結果的にいいことだったのかもとイルカは微笑ましく思った。
「ところでイルカがここにいるって、誰から聞いたの?」
 イルカがカカシの部屋にいることは誰にも伝えていなかったし、各部屋の壁や扉は音が漏れない程度には厚い造りだ。
 ふと疑問に思ったカカシが問い質すと、ナルトは満面の笑みで答えた。
「クラマが教えてくれた! ホントはイルカ兄ちゃんにすぐ会おうとしたけど、今は大人の話し合いで忙しいから後にしとけって。なんか、これは体の話し合いだから時間がかかりそうだって。取っ組み合いでもしてたのか?」
 その意味を理解したイルカが、みるみる内に茹だっていく。
 どうやらクラマには、二人が何をしていたか筒抜けだったらしい。ナルトが分かっていないことだけが救いだった。
 真っ昼間からこんなことしやがってと八つ当たり気味にカカシの足をぐいっと踏むと、カカシは痛がりもせずに難しい顔をしている。
「……ナルト、お前はクラマと会話してるんだよね。腹の中に封印してる奴とどうやってできるの?」
 カカシの問いかけにナルトは腕を組んで斜め上を見上げ、うーんと唸った。
「えっと、そうだなぁ……声に出さないで話す感じ? 俺がクラマん中にいた時からそうしてたから、よく分かんねぇ」
 ナルトはあっけらかんと答えたが、要は言葉を発さずに思念だけで会話ができるということだろうか。
 魔界でもそういう種はいるが、これはナルトとクラマだけの間で成立するのか、それとも誰でもその様にクラマと会話できるのか、今後のことを考えると知っておきたいところだ。
 そう訊ねるとナルトはしばらく黙ったが、これがクラマと会話してる状態なのだろう。
 するとイルカがおもむろにしゃがみ、ナルトの目を覗き込むと話しかけた。
「クラマ、そこは快適か? ……そっか、良かったな! こないだは俺の幻獣化を助けてくれてありがとな……うん、あ、あとさ、その、さっきのカカシとの事、……そうだよもう! 勘弁してくれよ…………だろ?」
 イルカが普通にクラマと会話しているらしい様子にカカシは驚いたが、そういえば洞穴の中でイルカがクラマに呼ばれたと言っていたことを思い出した。すると波長の問題なのかと考え込む。
 試しに自分も、と屈んでナルトの目を覗き込んでみるが、いくら集中してもナルトの澄んだ青い目しか見えず、声も聞こえなかった。
「……あぁ、カカシはいいヤツだよ。ちょっと意地悪だけどな。……えっ? あぁ、ちょっと待って」
 イルカが不意にカカシの方に顔を向けた。
「クラマがさ、なんか言いたいことがあるんだろって」
 急に水を向けられたカカシは驚いたが、そもそもナルトを連れてきた本来の目的を思い出したので、それをイルカに伝えてもらう。張本人のナルトはしばらくは黙って聞いていたが、そのうち飽きたのか大あくびをして部屋の中を見渡し始めた。
 説明を終えたイルカが真剣な顔をしてナルトをじっと見つめていたが、時々驚いたような顔をしつつ、うんうんと頷いている。そしていつにない厳しい顔でカカシを見上げると、会話の内容を教えてくれた。
「クラマはナルトと一緒に魔界大九柱の所に行ってもいいって。だけどたぶんバアル辺りは、クラマが腹の中にいることに気付くから大騒ぎになるだろうって。あとさ……元々眠ってたクラマを起こして魔界を破壊させたのはルショールだから、奴はクラマを封印したナルトが九柱に就いても気にしないだろう、って。……あぁ悪い、ルシフェールな。ルシフェールって誰だ?」
 カカシはイルカの伝えた内容を理解するのに、しばしの時を要した。
 ナルトの中にクラマが封印されていることが知れたら、魔界大九柱は間違いなく大恐慌に陥るだろう。だがそれを気にしない、そしてクラマに魔界の破壊を簡単に命ずることのできる魔物。
 ――つまり、ルシフェールとは恐らく。
「大魔王サタン様の真名だ……」
 伝説と化した九尾の災厄の真実を知ったカカシが、呆然と呟く。
 大魔王サタンとは、有り体に言ってしまえば肩書のようなものだ。
 偉大なる大魔王の名を呼ぶことは禁忌とされ、普通の魔物はその名を知ることさえ許されない。ごく一部の上位にある魔物は知っていても、口に乗せることはない。直接大魔王サタンと謁見を許される者だけが、その名を知ることができるのだ。
 クラマは、その位置にいる魔物だったということだ。
 そしてサタンに命ぜられたら魔界を焦土にできるだけの力もある。
 それだけの魔物が、たとえ封印されているとしても目の前にいることに、カカシは思わずイルカの腕を引いて抱き寄せた。
「なぁなぁ、難しい話は終わった?」
 体を前後に揺らし、今にも走り出しそうなナルトが無邪気に訊ねた。
 やや甲高い少年特有の声に、揺らいでいたカカシの焦点がナルトにぴたりと合う。
 この少年を封印媒体から解放し、世界を見せたいというのはやはり自分が自由になりたいがための策略だったのか。だがそれなら独力で封印を解けたのだから、何もナルトの腹の中に収まる必要はない。ならばクラマの真の目的は何なのか。
 境界での同じ疑問がカカシの頭を駆け巡る。
 すると黙って腕の中にいたイルカが口を開いた。
「そのルシール? は気まぐれだから、たぶんなんとなく魔界を壊してみたかったんじゃないかって。クラマは命令には逆らえないから、魔界のみんなには悪いことしたなって謝ってるよ」
 その言葉でカカシの頭に渦巻いていた色々な事が、すとんと腑に落ちる。
 恐らくサタンは、子供が完成した積木の町をなぎ払って壊すような、そういう破壊衝動のままにクラマに命じたのではないか。
 カカシは目を閉じて様々な疑念を振り払うと、大きなため息と共に呟いた。
「そっか……そうだね、大魔王サタン様はそういう御方だったね……」
 大魔王サタンの真意は誰にも測れない。
 だがクラマの言葉は、納得のいくほどにサタンの性格を捉えたものだった。子供のように気まぐれで、思いつきで魔界を壊したり封印媒体の子を魔王に据える。
 全ては絶大な魔力を持つがゆえに許されることだった。

 クラマのことは、今は信じる方向で考えてみようとカカシは頭を切り替えた。
 信じきるには不明な部分が多いし、裏切られた時の代償はとてつもなく大きなものになるだろう。
 それでもイルカが初めから心を開いた相手だ。
 イルカが信じたものを信じるのは今の自分にとって必要なことに思え、『何かあった時は二人で立ち向かう』を改めて心に刻み付けた。
 そしてもう一つ、イルカに教わった『困った時は誰かを頼ることも考える』も。
 それは一見弱者の選択肢に見えるが、弱味を晒し頭を下げて助けを請うという行為は、相手への信頼があって初めてできることだと知った。
 ――誰かを信じられるイルカは強い。
 一人で生きてきたつもりの自分は、頑なで弱かった。魔力の大きさだけが全てではないというアスタロトの言葉をふと噛み締める。
 そのことに気付かせてくれたイルカと、自分を取り巻く仲間の絆に感謝しながらカカシは口を開いた。
「イルカ、ナルト、クラマ……ちょっと考えがあるんだけど、その前に一つ確認したいんだ。ナルトは魔王、つまり魔界の偉い人になりたい?」
 今まで蚊帳の外だったのが急に話を振られ、ナルトはきょとんとした。
「それって面白いのか?」
 ナルトの素直な反応に、カカシとイルカは思わず吹き出した。
 何を面白いと考えるかはそれぞれだが、少なくともナルトが魔界大九柱に座すのを面白いと感じるとは思えない。
 カカシは笑みを残したまま、同じことをクラマにも訊ねてもらった。するとやはりクラマも、魔王なんぞになるくらいなら洞穴に封印されてた方がましだという答えだった。
 それを聞いたイルカが、とうとう腹を抱えて笑い出した。
「お前たちみんな似た者同士なんだな」
「イルカだって一緒でしょ」
 カカシが口を尖らせると、ナルトは頭の後ろに両手を組んでイルカを見上げてきた。
「みんながつまんねぇって言ってんのに、なりたがる奴なんかいるのかよ」
「つまんなくても立派な仕事だからな。だけどな、人の上に立ってただ偉そうにするのが好きな奴もいるんだよ」
 イルカの解釈は偏ってはいるが事実だ。
 カカシの脳裏に、狡猾で残虐なベルゼブブの姿が浮かぶ。九柱に就きたくはないが、就かせたくない魔物というのもいるのだ。
 ナルトとクラマの意志を確認して、カカシの案はだいたい決まった。
 あとはベルゼブブの件も含めて、自分の我儘ではあるが全てを丸く解決する一つの方策を、関わってくれた者たちに提案してみる時だ。