【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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八百幸番外編 火影執務室 ~春~
火影執務室。
ここに入るのはまだ三回目だ。特上の時に特別任務で暗部に同行せよと六代目の命を受けたのと、晴れて上忍になってからと、今日。
廊下の窓から外を見ると、満開の桜に三年前のナルト君の祝言の日を思い出す。
あの時は警備で屋外の会場を担当していたから、六代目とイルカ先生が並んでるのを遠目に見た。穏やかに時折笑みを交わす二人は、まるで時間を遡ったかのようだった。
十年以上前にうちの商店街で、店の手伝いをする私の目の前でいつもそうしていたように。
アケミ美容室でみんなの話を聞いて、晴れやかな祝言で二人を見た二年前からずっとぼんやり思ってた。
まだチャンスはあるんじゃないか、些細なきっかけ一つで状況は変わるんじゃないかと。
私にも何か、できることはあるんじゃないかと。
いよいよだ。
仕込みに一年以上かけた、私の一世一代の策略の仕上げをこれから始める。
武勇、知略に優れたかの六代目火影様を相手に、どれだけ私のトラップやミスリードが通用するかは分からない。すうっと大きく息を吸うと、もう一度桜に目をやってから扉をノックして入室した。
「ちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだね、ユキ。元気そうで良かったよ」
書類が山と積まれた執務机の向こうで、六火を背負ったベスト姿の火影様が目元だけで微笑む。
「はい、ご無沙汰しておりました。先だっては上忍試験にお口添えをありがとうございました。おかげさまで上忍として里の為に日々邁進しております」
火影様は私の挨拶に一つ頷きを返した。
「それで? わざわざ話があるって時間を取ったってことは、お仕事の事じゃないんでしょ」
途端に砕けた口調に変え、かつてのはたけ上忍の顔になる。それでもうちの店先で見せてた顔には程遠い。
私ははたけ上忍の顔を見てから、執務机の上に積まれた幾つもの書類の山の陰に、ひっそりと隠れるように置いてある猫のぬいぐるみをちらりと、だけどはっきり視線を投げたと分かる程度に見た。
正確には猫とは言えないかもしれない、全身緑色の尻尾がほうれん草の形をしたぬいぐるみ。
――イルカ先生が初代を務めた、木の葉わくわく商店街のゆるキャラを。
「いえ、半分私事ですが一応業務についてです。実は長期休職を考えておりまして、火影様にお願いに参りました」
「ふぅん?」
軽い相槌。
でも濃い灰青色の両目に浮かんでるのは、猜疑と戸惑い。
そりゃそうだろう。一介の上忍が火影様に直接休職宣言なんて、普通は有り得ない。よっぽどの事情がない限り。
でもこれはよっぽどの事情になるはずだ。はたけ上忍においてだけは。
相槌の後に軽く首を傾けて先を促されたので、軽く息を吸って次の言葉を続ける。
さぁ、はたけカカシ上忍。この爆弾をしっかりと受け取ってくださいね。
私はあえてはたけ上忍ではなく、今度ははっきりとはっぱにゃんのぬいぐるみに目線を投げながら口を開いた。
「ある方と結婚を決めたので、当面は家庭を守ることに専念したいと思います。……子供ができたので」
ひゅっと息を呑んだのが、口布越しにでもはっきりと聞こえてきた。
聡明なる火影様のことだ。私がわざわざ直接宣言しに来た理由を、これで理解しただろう。
『ある方』――イルカ先生との子供ができたから結婚すると。
かつて貴方のものだったイルカ先生を、私が貰うと。
十三年前と逆転した立場に、はたけ上忍は立ち直るのに八秒かかった。切れ者と言われる火影様にしては失態にも等しい。
「……そう、子供ができたのね。おめでとう」
「ありがとうございます」
儀礼的な笑顔を向けられたので、私はことさら笑顔を作って見せた。嬉しそうに見えるように。
でも子供ができたのは本当だから、意識しなくても笑みは浮かぶし自然と両手がお腹を守るように伸びる。万が一、本当に有り得ないけど、はたけ上忍が動揺して私のお腹に無意識にでも殺気を放ってくるかもしれないから。
「……実はまだ彼に言ってないんです。彼は子供が大きくなるまでは子育てに専念してほしいと、日頃から話してましたので。火影様直々の休職許可を頂けたら、彼もきっと安心してくれると思いまして」
すらすらと喋る私の言葉は、はたけ上忍の頭までちゃんと届いてるのかどうか。とりあえず聞いてはくれてるみたいだけど、儀礼的な笑顔のまま固まってる表情からは何も窺えない。
でも無意識にだろう、右手がはっぱにゃんに伸びかけて止まった。
そう。
私の言う『彼』はイルカ先生よ。分かってくれてるなら良かった。
この一年間、事あるごとにイルカ先生と接触を続けてきた甲斐があったというものだ。はたけ上忍の目に付くように。
二人とも多忙だからタイミングの合わない事の方が多かったけど、無理はしなかった。それくらい慎重にならないと、はたけ上忍の目は誤魔化せない。
時折私だけにピンポイントで向けられる殺気めいたチャクラは、はたけ上忍は意識してのことだったんだろうか。それにしては苛立ちや切なさみたいな、私的すぎる揺れが多く含まれてた気がする。でもおかげで計画が順調だと分かったから有り難かった。
「今書類は持ってる? 火影印が必要なら押すけど」
「いえ、この後彼に話しに行くので、それから提出します。たぶん喜んでくれると思うんですけど」
「そう……。や、あの小さかったユキが結婚ねぇ。しかも子供が産まれるなんて、本当におめでとう。じゃあ諸々の申請書は後でよろしくね」
「はい、ありがとうございます。それではこれからすぐ彼にも伝えてきますね。お忙しいところ失礼しました」
『これからすぐ』をやや強調すると、頭を下げて六代目火影様の前を辞した。
執務室の扉を閉め、廊下を歩き、階段の所まで来た途端、どっと緊張が解ける。
なんとかはたけ上忍を騙すのに成功したみたいだ。
護衛の耳を憚ったという体でお互い『彼』には一切触れなかったけど、はたけ上忍はほぼ確実にイルカ先生のことだと思ってるだろう。
一度は失った初恋を十年間育て、別れる時をじっと窺って、イルカ先生の望む立派な忍――上忍になってチャンスを掴み取ったかつてのアカデミー生徒、そして恋敵。はたけ上忍はそんな風に私の情報を構築し直してるに違いない。
終始にこやかに対応してたけど、動揺してるのは丸見えだった。
でもそんな状態でさえ、正直なところ今はたけ上忍に書類を見られるのは非常に困る。だから書類一式は持参する訳にいかなかった。
だって、夫となる者の欄に書かれるのはイルカ先生の名前じゃないんだから。
確かにイルカ先生は初恋だったし、今でも大好きだ。
だけどあれだけ親密な雰囲気で子供の私を牽制しておいて、はたけ上忍はどうして今さら私が割り込めるなんて思ったんだろう。私が自分でそう仕向けたくせに、そう思うとちょっと笑ってしまう。
あれから私も大人になりちゃんと恋をして、一般人の優しくて誠実な人と順調なお付き合いを経て、安定期に入る来月には身内だけでささやかな式を挙げる。私の『彼』は既に八百幸の跡継ぎとして店先に立っているのだ。イルカ先生はそれを知ってるけど、お忙しい火影様はご存知ないでしょうね。さりげなく先生に探りを入れても、個人的な話を六代目とはしてないみたいだったから。
何も知らない火影様は、今頃落ち着きをなくして業務に支障が出てるだろう。
この後私が『彼』と会って妊娠を伝え、結婚を申し込むと知ってしまったんだから。
はたけ上忍はきっと『彼』の反応を知りたいに違いない。影分身を出すなりして後を追ってくる確率は五分五分だけど、どっちにしろ今度はアカデミーの裏庭に行かなくては。
そこにはイルカ先生を呼び出してあるのだ。
「久しぶりだなぁ、ユキ。元気にしてるみたいだな」
急いで裏庭に走ったけど、少し待たせてしまったみたいだ。
イルカ先生――本当はイルカ教頭と呼ぶべきなんだけど、心の中ではどうしてもイルカ先生と思ってしまう。イルカ先生は永遠のイルカ先生なのだ。
「はい、おかげさまで。お待たせしてすみません」
先生は私の謝罪を軽く手を振っていなし、「今日はどうした?」と話を続けようとするので、その前にと遮音式の結界を張った。イルカ先生にはちょっとプライベートなことだからと言い訳したけど、実際は私たちの会話がはたけ上忍に漏れないようにするためだ。
ここは木々に囲まれてはいるが開けた場所で、身を潜める所も限られる。イルカ先生の反応を見たいなら、間違いなく私の背後だとは思うけど、はたけ上忍は本当に来てるだろうか。さすがに私如きじゃ気配は感知できない。
「それで? わざわざ呼び出してこんな結界張るくらいなんだから、仕事の話じゃないんだろう?」
普段は私を上忍として扱って敬語を使うのに、今は昔のままに砕けた口調にしてくれている。しかも言ってる内容まではたけ上忍とまったく同じ流れだったので、思わずくすりとしてしまう。
「なんだ、そんなにこにこして。何かいい話なのか?」
「はい。実は、子供ができたので産休を頂こうと思います」
イルカ先生は目を真ん丸にしてから、ぱぁっと満面の笑顔で「そうか、おめでとう!」と私の両手を握った。
「ユキがお母さんかぁ……あの小さかったユキがなぁ! 本当に嬉しいよ!」
「せっかく上忍になったのに、すぐ産休なんて申し訳ないです」
「何言ってるんだ! 子供は里の宝だぞ、みんなで大事に育てなきゃな! それにユキならすぐ復職できるさ!」
感極まったのか、イルカ先生が涙ぐみながら私の手を何度もぽんぽんと叩いてくれる。思わず私までつられて泣きそうになったけど、本来の目的を思い出してぐっと堪えた。
今のイルカ先生の嬉しそうな笑顔、はたけ上忍に見えたかな。
音は遮っても顔は見えるし、先生の唇の動きは読めるはずだ。その為のこのポジショニングなんだから。
――お願い、気付いて。
いつまでも気付かないふりをしてないで、現実を見て。
はたけ上忍がずっとこのままなら、いつかこうやってどこかの誰かにイルカ先生を奪われてしまうかもしれないってことに。
今それを目にした時の、その衝撃を決して忘れないで。
これが茶番だってことは、書類を提出すれば明日にでも分かるだろうけど。
はたけ上忍が感じた胸の痛みは現実なんだから。
まだはたけ上忍がいるか、そもそもこの場にいたかすら分からないけど、結界を解除してからイルカ先生と別れる時に念の為「それじゃ、これから書類を提出してきますね」と声をかけた。さっき執務室で話した筋書きに沿うように。
実際はこの後私の本当の『彼』と落ち合って婚姻届を提出し、出産休暇の申請も正式に提出する。早ければ明日、この書類一式が六代目火影の元にも回ることだろう。何事にも念を入れる火影様のことだから、その前に秘かに手を回して直接確認するかもしれないけど。
或いは、イルカ先生に直接確認しに行くかもしれない。ユキから聞いたんだけどと言いながら、結婚と出産のお祝いという体裁で。
そうしてくれれば話は早いんだけど、はたけ上忍にできるだろうか。これだけ長い時間、イルカ先生を手放し続けてきた彼に。
私にできるのはここまで。
初恋で失恋した原因の恋敵に、ここまでするだけでも褒めてほしいくらいだ。
これからは自分と彼と、そして生まれてくる子供のことだけを考えよう。未来の木ノ葉を担う、新しい命のことを。
さよなら、大好きだったイルカ先生。
今度こそ本当にさよなら。
商店街で、受付で、アカデミーで、長い間ずっと先生を見てきたから知っている。
イルカ先生ははたけ上忍のことを過去にしてなんかいないって。
二人が仕事で一緒になる時を何度か見かけてたけど、はたけ上忍の視線が逸れた時に見つめるあの目は、大切な人に向けるものだ。
深い熱と情を伴った愛。
それはかつて先生に恋をして、それでもイルカ先生に対して第三者であり続けるしかなかった私だからこそ分かるものだった。
願わくばイルカ先生の愛する大切な人と、二人で幸せになってくださいね。
あの頃のように。
あの頃よりも。
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