【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
 




 白い火影マントを羽織ったナルトが手を振る。
 里民に混じってそれを見上げるイルカの目には、それが木ノ葉丸の変化だと一目瞭然だったが、それでもナルトが七代目火影になったことに変わりはない。
 万感の思いを込めて拍手を送り、滲む視界に拳で目元をこすった。
 ナルトがマントを翻して本部棟の屋上から退くと、しばらく眺めていたイルカはポケットから一枚の式を取り出す。
それは眩しいほどの陽射しのような、黄金色に輝く式だった。宵に紛れ閨を思わせる至極色とは真逆の、太陽の光を写し取ったかの如く煌めく黄金色の式。
 七代目火影がもたらすであろう新しい時代の、象徴たるナルトの髪色だ。
 その黄金色に思いを馳せたイルカは小さく笑みを浮かべる。そしてなおも躊躇ってから、意を決したように式にチャクラを込めた。
 この式でカカシとの関係が変わる。変えたいという祈りにも似た願いを込め、愛しいものを包むように、そっと。
 式は青金色の蝶に姿を変え、二、三度羽ばたいてから軽やかに飛び立った。



 無事式典の参列を終えたカカシが、ナルトと前後して屋上から階段へと足を向ける。
「はー、まったく。まさかヒマワリの白眼の暴発に巻き込まれて就任式に出られないなんてね。こんな時でもナルトは意外性ナンバーワン忍者だよ」
「ほんとですよ、さすがはナルト兄ちゃん。おっと、今は七代目火影様でしたね。それにしてもヒマちゃんと七代目は大丈夫かな……」
 カカシがナルト――木ノ葉丸と共にぼやいていると、肩に青金色の蝶が止まった。その薄い羽に触れると、ぽふんと軽い音を上げて蝶が式へと変わる。
 記された文面にさっと目を通したカカシが、いきなり駆け出した。
「六代目? どうしたんだコレェ」
 木ノ葉丸がついいつもの口癖で問いかけるが、もうカカシの姿はなかった。



 人混みに逆らうようにアカデミーの方へと向かっていたイルカの行く手を阻むように、だが十分な距離をおいてカカシが立った。
 イルカはどこかほっとした顔を見せると、カカシの脇をすり抜けて今は葉ばかりになった桜の木陰で足を止める。
「あの……イルカ先生、これは……」
 追ってきたカカシは、それでも手の届かないほどの間隔を空け、握っていた黄金色混じりの青い紙片を広げて掲げた。

20240102-181947.png

 顔だけで振り返ったイルカはそれにちらりと目をやると、カカシに穏やかな笑みを向ける。
「ご覧の通り、指名任務依頼書ですね」
「それはそうですけど、その……伽、って」
 ぼそぼそとイルカのうなじに向かって問いかけるカカシに、くるりと体を向けたイルカは後ろ手を組んで相対した。
「ええ、伽役の依頼書ですよ。カカシさんに。ご存知なかったかもしれませんが、戦場において伽役の任命に階級の上下は問われていないんです。つまり、中忍である俺が上忍の、そして六代目火影であるあなたに命じてもいいんですよ。伽を」
 もちろんここは戦場じゃないんですけど、そこらへんは融通を利かせてください、とイルカが悪戯っぽく笑う。
 元火影に堂々と伽を要求する姿に気圧されたのか、おろおろとするばかりのカカシだったが。
 その深灰色の目に揺らぐのは混乱だけではなかった。
 どこか少しだけ、本当に僅かだが期待か喜びの輝きを見てとったイルカは、とっておきの隠し玉を投げる。
 どうかカカシがうまく受け取ってくれるようにと、秘かに願いながら。

「伽には閨だけでなく、他の意味もあるでしょう」

 本来、伽とは退屈を紛らわすための話し相手を務めることをいう。
 それが夜に寝所に侍って相手をする、性的な意味合いをも持つようになったのだ。
「……あ。…………あぁ、そうでした、ね」
 カカシも当然そこは知っているだろうが、まさかイルカから伽の指名任務を依頼されるとは思ってもみなかったようで、何度も頷きながら自分の勘違いにうっすらと頬を染めた。
 口布から僅かに覗くその変化を見られただけで、イルカは満足する。
 趣味が悪いと思われようとも、自分が伽を命じられた時の、そして突然解任されたショックを少しでもカカシにも味わわせたかったのだ。
 たとえ任務だろうと、それを受けて遂行するのは人だ。
 伽役は私的な任務ではあっただろうが、だからこそ心のないやり方をしたカカシを、受け入れはしても許すことはできなかった。
 聡いカカシのことだ。今のやり取りでそれは伝わっただろう。
 意趣返しが成功したことで、にやりと笑いかけたイルカはふうと息をつく。
 ここからが本題だ。
 イルカは心を決めたのだ。
 ずっと向けられてきたカカシの無表情を、伽役を解任された今、徹底的に剥がしてやろうと。
 何年間も間近で見続けてきた様々な無表情が崩れた時、伽役を命じた『火影』の思惑がうっすらと、それこそ紗の布越しにようやく透かして見えてきたような気がした。
 カカシは欲しいものを欲しいと言えなかった。
 せっかく生き延びたのに。
 イルカが封じてしまったからだ。「里と誓いを交わしたようなものだ」という一言で。
 ならば、火影の名の下でのみ欲しがれば許されるだろうと。
 今まで奪われ諦め続けてきたカカシは、それほどまでに欲しがり方を知らなかったのだ。
 自分の本当の望みが受け入れてもらえないなら、憎まれることで相手に自分の存在を刻み付けるという歪んだ望みしか抱くことができず、ただ。
 ただ一言、「あなたが欲しい」と言えばいいことすら思い付かないくらいに。
 六代目火影のマントの影にいる『はたけカカシ』は臆病で不器用で、そんなところも愛しい男だった。
 臆病だったのは自分も同じだ。
 思えば最初に聞けば良かったのだ。
 なぜ自分を伽役にしたのか、ではなく、「伽役を命じてまで俺を抱きたかったのはなぜなのか」と。
 身体だけでもなんて物分かりのいいふりをして、結局はカカシの心を知るのが怖かっただけだ。
 お前の心などいらないと言われるのが怖かった。
 伽役は何人もいる、お前はその内の一人だと、カカシの口からそう聞いてしまうのが怖かった。
 だがそれらは全て、イルカの中のカカシが囁く虚の声にすぎない。
 それを聞くことでイルカもまた、カカシの本当の心などいらないと耳も目も塞いでいたのと同じだったのだ。
 だから。

「話をしましょう。六代目火影様ではないあなたと、俺で」

 伽役でもいいと身体だけの繋がりばかり深くなって、心を置き去りにしてしまった。
 大切なカカシへの、大切な気持ちを。
 ならばこれから取り戻さなければならない。
 まずは、自分から。

「俺は……」

 喉の奥が詰まったような気がして、イルカは次の言葉を躊躇った。
 だが舌の奥にはもう、燃える炎の呪印はないのだ。

 ――伝えろ。
 ――自分の言葉で。

 ぐっと引き結んだ唇をもう一度開く。

「カカシさん。あなたのことが好きです。好きな人なんていないなんて嘘をついてすみませんでした。本当はずっと……ずっと前から……」

 カカシの目が真ん丸に見開かれた。
 口もぽかんと開いているのが、口布に隠れていてもはっきりと分かる。
 あぁ、そんなあなたが愛しいと。
 胸いっぱいに広がる想いを込めて。

「好きです」

 ――やっと言えた。
 抱え続けてきた想いを告げられたことで、体の中の何か重くて苦しいものがすうっと消えていった。
 自分が大切にしてたと思っていた想いを、いつの間にか自分を苦しめる枷にしてしまっていたことに、イルカはようやく気付く。
 カカシはまだ混乱の中にいる。
 だが額当てと口布に隠された素肌を染めるのは、喜びではないのか。
 あれだけ暗い光を宿していた目に宿るのは、希望ではないのか。
 ずっと見たかった『六代目火影』ではないその素の表情に、イルカはそっと笑みを零した。
 伽役を命じたカカシの本当の思惑が何だったとしても、それはこれからゆっくりと聞けばいいことだ。
 二人はまだ手を伸ばしても届かない距離で立っている。
 イルカは一歩、足を踏み出した。
 無意識なのかカカシが一歩、後ずさる。
 それに構うことなくまた一歩、一歩と足を進め、カカシの前に立った。
 腹を括りさえすれば、手を伸ばすのはこんなにもたやすい。
 そのことを感慨深く思いながら、カカシの手の中の紙片を取り上げようとした。
「念のため言っておきますが、これは拒否できるものです。そもそも正式な任務依頼書の形式じゃないですしね」
「拝命します」
 紙片を取られないようにととっさに後ろに回したカカシが、生真面目な顔でイルカの言葉にかぶせるように即答する。
 その短い一言でカカシはイルカの伽役になった。
 だが。
 それはきっと、穏やかで優しい時間になるだろうと。
 二人でそうするのだという思いで、イルカはにこりと笑いかけた。そしてさらに一歩、踏み込んでカカシに身を寄せ囁きかける。

「『夜伽』の方も期待してますね。俺をこういう身体にした責任は取ってもらいますよ……カカシさん」

 夜明けも真昼も宵も。
 全ての時間は伽になり得るのだ。
 いろいろな話をして、時には肌と肌を合わせて。
 二人が望めば、いつでも。
 カカシの喉がひゅっと鳴る。
 その口元を覆う手には、いつもの黒い革の手甲が嵌められていた。
 まずはそれを外した手に触れたいと、イルカはそっと手を伸ばした。



【完】

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。