【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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【J】
そんな自分に吐き気がする。
本心を柔らかな真綿に包み、綺麗な色紙を幾枚も重ねて、その場かぎりの”良い人”を演じることは、幼少期の体験を消化しきれない俺の処世術。
最初は眉の動かし方、目の細め方、声の調子にまで気を遣い、選び抜いた言葉を唇に乗せていたのに、いつしか無意識のうちに、作り笑いと甘い言葉がこぼれ出るようになった。
実のない優しい言葉は、実のある厳しい言葉よりも、人々の歓心を得る。
所詮、人同志のつながりなどその程度のものか、と思ってからは自分自身の考えや想いを言の葉に乗せることを諦めてしまった。
そのうち、誰にも本心を言えなくなった。
沢山の人に囲まれていても、俺は孤独だった。
執着するのは、死んでしまった大切なひとたちと、ナルト。
うずまきナルト。ミナト先生の忘れ形見。
そんなナルトを。
大切な、ナルトを。
己の命を顧みず救ってくれたイルカ先生に俺は何をした?
どうして、彼を抱いた? どうして止まれなかった?
イルカ先生を抱いているときに感じた愛しい思い、手放したくないという祈りにも似た切実な願い。その強い想いがあればこそ、止まらなければいけなかったのに。
彼にこそ、臆することなく真実の言葉をかけなければいけなかったのに。
したことは決して赦されることではないけれど、してしまったからにはせめて真摯に詫びなければいけなかったのに。
呆けた顔のイルカ先生の両眼に侮蔑の色が浮かび、一瞬で消えた。
だから俺は悟る。
俺が現われてからの全てはイルカ先生の演技だった。”写輪眼のカカシ”の異様な性癖を前に、賢明な中忍はその身を差し出した。
快楽に溺れ、夢中で俺のペニスを欲しがったイルカ先生も、もっともっと、と接吻を強張ったイルカ先生も全部嘘だ。
全ては俺という里最強の忍の怒りを買わぬため。
男の矜持を捨ててまで守り抜いたのは、自分自身などではなく、ナルトの未来だったのだろう。
あの事件以来、イルカ先生がナルトにひどく肩入れしていることは里中に知れ渡っている。
俺の怒りがナルトに向くことをイルカ先生は恐れた。
俺に同調する多くの忍びが現れることを恐れた。
体中の血の気が引き、指先がカタカタと震えだした。
「カカシ先生?」
あどけない顔で小首をかしげ、俺を見るイルカ先生。
その眼の奥底に眠る嫌悪の光に、震えが大きくなる。
震えはやがて全身に伝わり、俺は自分で自分を強く抱きしめた。
言わなければ。
本当のことを、言わなければ。
ナルトを救ってくれて嬉しかったこと。
ナルトを守ったイルカ先生がどんな人か気になって観察するうちに、先生のことを好ましく思っていたこと。
話したこともないくせに、一方的に親しくなった気持ちになって、イチャパラで先生をからかおうと思ったこと。
それから。
自慰をする先生があまりに淫靡で、理性が焼き切れたこと。
夢中で抱き潰し、腕の中の存在が愛しくて夢中になって腰を振って、吐き出して、満足して。
先生もキモチヨサソウにしてくれたから、受け入れてもらえたって勘違いして。温かで優しくて可愛い人と、これから一緒に生きていきたい、なんて身勝手なことを考えた。あまつさえそれを、あんな形で伝えてしまった。
「カカシ先生、どうしたんですか?」
イルカ先生の怜悧な目が俺の全身を検分している。何か深刻な異常を感じたならすぐさま救援の式を送るつもりなのだろう。”写輪眼のカカシ”に何かあったら里の平和も脅かされる。己の感情を排し忍びとして俺に接する先生の態度に、俺も冷静さを取り戻した。
もう、震えは止まっている。
「失礼しました。もう大丈夫です」
本当に? とでも言いたそうな顔で暫くの間イルカ先生は俺の観察を続けていた。
やがて納得したのか、「よかった」と作り笑いを浮かべる。
「イルカ先生……申し訳ありませんでした」
意を決して放った言葉をイルカ先生は綺麗に無視して、ベッドの隅に積まれた洗濯物の中からバスタオルをひっつかみ俺に押し付けてくる。
「風呂、先に入っててください。その間に朝飯を準備しときます。パンしかありませんが、いいですよね? 今日はアカデミーが休みで昼から受付なんです。夜の7時には仕事が終わるので、受付まで迎えにきてもらえませんか? 一緒にメシ行きましょう」
「えっ?」
戸惑う俺に、これで体を洗ってください、とタオルも手渡す。
「俺たち、付き合っているんでしょう?」
「いいんですか?」
どうして?
俺はこんなに酷い男なのに。どうして?
「いいですよ。まぁビックリしたけど、俺も……その……キモチよかったし、折角だから付き合っちゃいましょうよ」
先生は、昨夜の強姦をなんでもないことのように”キモチよかった”で片づける。
まるで、友人を呑みに誘うかのような気軽さで”付き合っちゃいましょうよ”と言う。
だけど、俺の顔を見てはくれない。
どうして?
イルカ先生、あなたは何を考えているんです?
「そうだ。今日は先にナルトと約束しちまってるんで、晩飯ナルトと三人で行くってことでいいですか?」
ナルト、と呼ぶときだけ声に温かみが宿る。
あぁ、なるほど。
そうやって貴方はナルトを守るんだ。
自分の気持ちも人生も犠牲にして、俺の恋人を演じることで、カカシがナルトの後ろ盾についたと里の皆に知らしめて、ナルトを守ろうとするんだ。
貴方は本当に貴くて、優しくて、賢い人だ。
ごめんね。イルカ先生。
ごめん。本当は解放してあげないといけないのに、卑怯な俺はそれでも先生の側で生きたくて。
ごめんね。イルカ先生。
こうして俺とイルカ先生はお付き合いをはじめた。
*
容赦なく照りつける夏の太陽。
灼熱の大地はひび割れ、干からびた草が熱風に煽られ目の前を転がっていった。
空が、青かった。
泣きそうになるくらい、鮮やかで美しい空だった。
チョウジは、もう里に戻った頃だろうか。
ペインは……誰が倒すのだろう。里はどうなるのか。ナルトは?
イルカ先生は無事だろうか?
あぁ、視界が霞む。
もうすぐだ。
もうすぐ俺の全てが終わる。
遺されたチャクラはもう風前の灯だ。
ねぇ、イルカ先生。
貴方の側で貴方の声を聞き、貴方の美しい心に触れつづけた日々は、全てが貴方の犠牲の上に成り立つ歪んだ関係だったけど、俺の人生の中の唯一の安らぎであり平和でした。
愛しています。イルカ先生。
愛しています。貴方が大切でした。イルカ先生。
ごめん、ごめんね。せん……せ。酷いことばかり貴方にしたけど。
これでも愛していたんです。
心から、貴方を愛していたんです。
イルカ先生、俺は貴方を愛しているんです。
先生、先生、イルカ先生!!
*
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
耳障りな音が聞こえる。
波のように絶え間なく。
この音は、嫌いだ。とても不愉快だ。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
この音は、知っている。
忘れようとしても絶対に忘れられない音。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
首をつった父さんを医療班が病院に運んでいった。
父さんが沢山の管で機械に繋がれていくのを、俺は泣きながらみていた。
黒髪の医療忍がスイッチをいれると、機械は恐ろしい唸り声をあげはじめる。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
父さんの全身が不気味な光に包まれた。
やめろ! やめろ!! やめろ!!
父さんに何をするんだ! やめろ!! やめろ!!!!
「やめろっつ!!!」
「カカシさんっ! 気が付いたんですね。俺が分かりますか!? うみのイルカです。貴方のイルカです!!」
イル……カ? そんなひとはしらない。
とう……さんは? とうさんをたすけなきゃ!
「とうさんに何をするんだっ!!」
「カカシさんっ!?」
先生……? 俺が、先生? どういうこと? とうさんは!?
「サクラ、カカシさんは大丈夫なのか!?」
「はい。意識が戻ったならもう命の心配はありません。当分の間は記憶の錯乱が見られるでしょうけど、それも数日で落ち着くはずです」
「そうか」
「でも無意識に暴れる可能性もありますので、今から睡眠薬を投与します。イルカ先生も今の内に自宅に帰って眠ってください。先生、ずっと寝ないで看病していたでしょう?」
「ああ。でもそんなことはどうだっていい。側にいたいんだよ」
何だ? 真っ白な霧が頭の中に侵食してきた。
急速に音が遠のいてゆく。
いい加減に休まないと……イルカ先生まいっちゃい……
……そうかも……カカシさ……側にいた……
じゃ……私、他の患者さんを……
またなサクラ……ありが……
女の人の声と、柔らかくて優しい男の人の声がまじりあって。
何を言っているのか分からないけれど、嫌な感じはしない。
離れたく……カカシさ……愛……カカシさん……
な……んだっけ。
俺、何を考えていたんだ……っけ。
カカシさ……ん
あぁ。この人に名前を呼ばれると、とても幸せな気持ちになるのは何故だろう。
この人、誰だっけ。イルカ先生って、だれだっけ?
頭の中の靄がどんどんと濃くなって。
イルカせんせ……イルカ……せん……せんせ……
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
目覚めると、視界は白で埋め尽くされていた。
消毒液の臭いと、聞きなれた医療器具の耳障りな音で、ここが病院であると知れる。
とすれば、俺はベッドの上で目覚め、天井を睨み付けているというわけだ。
また、生き延びてしまった。
九死に一生を得た男の感想がコレだとは、俺を必死に救ってくれた医療忍に申し訳ないなと苦笑が漏れる。
戦況はどうなっただろうか。
イルカ先生は、ナルトは、サスケ、サクラ、テンゾウは、木の葉の同胞たちは無事だろうか。
戦える身体ならば、すぐに戦場に戻らなければ。
まずは起き上がって医療忍を呼び、己の身体についての説明を受けなければいけない。
見え方から察するに写輪眼は無事なようだ。四肢の欠損がなければよいが……。
上体を起こしかけたところで、背後からドアが開く音がした。
おそらく医療忍が巡回に来たのだろう。
ありがたい。呼ぶ手間が省けた。
「カカシさんっ!!」
だけど、喜色溢れたその声は、まぎれもないイルカ先生のもので。
俺の心臓が喜びと戸惑いに跳ねる。
「カカシさんっ! 気が付いたんですね」
心底嬉しそうな顔をして俺に駆け寄るイルカ先生。
「せん、せ」
先生の姿に胸が詰まった。
溌剌とした面影はどこにも見られなかった。
土気色の頬はげっそりとこけ、目の下の隈の色は深く、いつもは後れ毛もなくキッチリと結い上げていた髪は、無造作に後ろで束ねられ、後れ毛がやつれた印象を強くしている。
「よかった……。本当に、よかった」
そういって涙ぐむ先生は、どれだけ心が広く優しいのだろう。
先生の人生と矜持を奪い、俺に縛り付けたのに、俺が死ねば自由になれるのに、それでも俺が生きていたことを喜んでくれる。
もう、もういい。
もう充分だ。ありがとう。イルカ先生。もうイルカ先生を自由にしてあげないと。
「イルカ先生?」
「はい」
「俺たち、もう別れましょうか」
自分でも信じられないくらい穏やかな声だった。
心も不思議と凪いでいる。
イルカ先生がくれた、本当の気持ちを大切に抱きしめて、きっとこれからも生きていける。
人を愛するってこういうことだったんだ。
自分のものにしなくても、満たされるということ。
「ええ。そろそろ頃合いでしょうか。ナルトはもう充分に強くなったから。そうお考えなのですね?」
イルカ先生の言葉に目を細めて俺は頷いた。
どこか誇らしげにも見えるイルカ先生の顔。
ナルトを一人前の忍びに育て上げた自負もあるのだろう。
「今までありがとうございました。イルカ先生」
愛しています。いままでも、これからも。
だから、サヨナラ。
「こちらこそ、ありがとうございました。カカシさん」
イルカ先生が幸せそうに笑うから。
こんな顔は初めてみるから。
俺は自分が正しいことをしたのだと確信した。
よかった。
イルカ先生を手放せて、よかった。
「では、カカシさん」
つづくサヨナラの言葉を。
イルカ先生が俺個人にかける最後の言葉を、一字一句たがえずに胸に刻もうと全神経を集中する。
優しい微笑みをたたえたイルカ先生の形のよい唇がひらき、円やかな音が滑りでる。
「今度は俺が言います。カカシさん、俺と付き合ってください」
「え……?」
頭が混乱する。
何を言われているのか分からない。
イルカ先生が俺と付き合うって? なんで?
「どうし……て?」
「そんなの、愛しているからに決まっているじゃないですか」
「嘘だ。あんなに酷いことをしつづけたのに……愛してもらえるわけ、ないじゃない」
「確かにはじまりは最低でしたね。最初は貴方を恨んでいました。貴方が俺と付き合いたいと言ったとき、ナルトの為に利用してやろうと思った。そして実際に貴方の権威を思う存分利用させてもらいました。
おかげでナルトはのびのびと里で暮らすことができました。でも、すぐに気付いたんです。あなたは俺に利用されていることを知っている、と」
先生の告白に黙って耳を傾ける。
「恨みが薄れました。そうしたらまた事実が見えてきた。カカシさんは俺を抱こうとしない。任務帰りで昂っているときでさえ、俺に近寄らなかった。身体を求めないのに、俺に尽くして。俺と一緒にいたいと言って。
それに俺と付き合いはじめてから、いつもイチャパラを持ちあるくようになった。
あれは自戒のためだと自惚れていたのですが、ちがいますか?」
「先生の、おっしゃるとうりです。貴方に触れたくなったとき、自分が貴方に何をしたかを思い返すために、二度と貴方を傷つけずに済むように。そう思って本を持ち歩いていた」
「俺たちが共にすごした時間は決して短くはない。その間貴方はいつも俺に対して誠実でした。だから、いつの間にか貴方のお人柄と自分に向けられる純粋な愛情に、絆されていました。
愛していると言えなかったのは俺の弱さです。カカシさん、貴方を苦しめてごめんなさい。もう一度言います。俺と付き合ってください。一生を共にしてください」
「イ……ルカ」
先生は俺をふんわりと抱きしめて、俺の耳元で「”はい”以外の返事は受け付けません」と言った。
→エンディング カカシ編
→エンディング イルカ編
÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷
\担当クイズの答/
↓
↓
【J】mogoさん
でした!
そんな自分に吐き気がする。
本心を柔らかな真綿に包み、綺麗な色紙を幾枚も重ねて、その場かぎりの”良い人”を演じることは、幼少期の体験を消化しきれない俺の処世術。
最初は眉の動かし方、目の細め方、声の調子にまで気を遣い、選び抜いた言葉を唇に乗せていたのに、いつしか無意識のうちに、作り笑いと甘い言葉がこぼれ出るようになった。
実のない優しい言葉は、実のある厳しい言葉よりも、人々の歓心を得る。
所詮、人同志のつながりなどその程度のものか、と思ってからは自分自身の考えや想いを言の葉に乗せることを諦めてしまった。
そのうち、誰にも本心を言えなくなった。
沢山の人に囲まれていても、俺は孤独だった。
執着するのは、死んでしまった大切なひとたちと、ナルト。
うずまきナルト。ミナト先生の忘れ形見。
そんなナルトを。
大切な、ナルトを。
己の命を顧みず救ってくれたイルカ先生に俺は何をした?
どうして、彼を抱いた? どうして止まれなかった?
イルカ先生を抱いているときに感じた愛しい思い、手放したくないという祈りにも似た切実な願い。その強い想いがあればこそ、止まらなければいけなかったのに。
彼にこそ、臆することなく真実の言葉をかけなければいけなかったのに。
したことは決して赦されることではないけれど、してしまったからにはせめて真摯に詫びなければいけなかったのに。
呆けた顔のイルカ先生の両眼に侮蔑の色が浮かび、一瞬で消えた。
だから俺は悟る。
俺が現われてからの全てはイルカ先生の演技だった。”写輪眼のカカシ”の異様な性癖を前に、賢明な中忍はその身を差し出した。
快楽に溺れ、夢中で俺のペニスを欲しがったイルカ先生も、もっともっと、と接吻を強張ったイルカ先生も全部嘘だ。
全ては俺という里最強の忍の怒りを買わぬため。
男の矜持を捨ててまで守り抜いたのは、自分自身などではなく、ナルトの未来だったのだろう。
あの事件以来、イルカ先生がナルトにひどく肩入れしていることは里中に知れ渡っている。
俺の怒りがナルトに向くことをイルカ先生は恐れた。
俺に同調する多くの忍びが現れることを恐れた。
体中の血の気が引き、指先がカタカタと震えだした。
「カカシ先生?」
あどけない顔で小首をかしげ、俺を見るイルカ先生。
その眼の奥底に眠る嫌悪の光に、震えが大きくなる。
震えはやがて全身に伝わり、俺は自分で自分を強く抱きしめた。
言わなければ。
本当のことを、言わなければ。
ナルトを救ってくれて嬉しかったこと。
ナルトを守ったイルカ先生がどんな人か気になって観察するうちに、先生のことを好ましく思っていたこと。
話したこともないくせに、一方的に親しくなった気持ちになって、イチャパラで先生をからかおうと思ったこと。
それから。
自慰をする先生があまりに淫靡で、理性が焼き切れたこと。
夢中で抱き潰し、腕の中の存在が愛しくて夢中になって腰を振って、吐き出して、満足して。
先生もキモチヨサソウにしてくれたから、受け入れてもらえたって勘違いして。温かで優しくて可愛い人と、これから一緒に生きていきたい、なんて身勝手なことを考えた。あまつさえそれを、あんな形で伝えてしまった。
「カカシ先生、どうしたんですか?」
イルカ先生の怜悧な目が俺の全身を検分している。何か深刻な異常を感じたならすぐさま救援の式を送るつもりなのだろう。”写輪眼のカカシ”に何かあったら里の平和も脅かされる。己の感情を排し忍びとして俺に接する先生の態度に、俺も冷静さを取り戻した。
もう、震えは止まっている。
「失礼しました。もう大丈夫です」
本当に? とでも言いたそうな顔で暫くの間イルカ先生は俺の観察を続けていた。
やがて納得したのか、「よかった」と作り笑いを浮かべる。
「イルカ先生……申し訳ありませんでした」
意を決して放った言葉をイルカ先生は綺麗に無視して、ベッドの隅に積まれた洗濯物の中からバスタオルをひっつかみ俺に押し付けてくる。
「風呂、先に入っててください。その間に朝飯を準備しときます。パンしかありませんが、いいですよね? 今日はアカデミーが休みで昼から受付なんです。夜の7時には仕事が終わるので、受付まで迎えにきてもらえませんか? 一緒にメシ行きましょう」
「えっ?」
戸惑う俺に、これで体を洗ってください、とタオルも手渡す。
「俺たち、付き合っているんでしょう?」
「いいんですか?」
どうして?
俺はこんなに酷い男なのに。どうして?
「いいですよ。まぁビックリしたけど、俺も……その……キモチよかったし、折角だから付き合っちゃいましょうよ」
先生は、昨夜の強姦をなんでもないことのように”キモチよかった”で片づける。
まるで、友人を呑みに誘うかのような気軽さで”付き合っちゃいましょうよ”と言う。
だけど、俺の顔を見てはくれない。
どうして?
イルカ先生、あなたは何を考えているんです?
「そうだ。今日は先にナルトと約束しちまってるんで、晩飯ナルトと三人で行くってことでいいですか?」
ナルト、と呼ぶときだけ声に温かみが宿る。
あぁ、なるほど。
そうやって貴方はナルトを守るんだ。
自分の気持ちも人生も犠牲にして、俺の恋人を演じることで、カカシがナルトの後ろ盾についたと里の皆に知らしめて、ナルトを守ろうとするんだ。
貴方は本当に貴くて、優しくて、賢い人だ。
ごめんね。イルカ先生。
ごめん。本当は解放してあげないといけないのに、卑怯な俺はそれでも先生の側で生きたくて。
ごめんね。イルカ先生。
こうして俺とイルカ先生はお付き合いをはじめた。
*
容赦なく照りつける夏の太陽。
灼熱の大地はひび割れ、干からびた草が熱風に煽られ目の前を転がっていった。
空が、青かった。
泣きそうになるくらい、鮮やかで美しい空だった。
チョウジは、もう里に戻った頃だろうか。
ペインは……誰が倒すのだろう。里はどうなるのか。ナルトは?
イルカ先生は無事だろうか?
あぁ、視界が霞む。
もうすぐだ。
もうすぐ俺の全てが終わる。
遺されたチャクラはもう風前の灯だ。
ねぇ、イルカ先生。
貴方の側で貴方の声を聞き、貴方の美しい心に触れつづけた日々は、全てが貴方の犠牲の上に成り立つ歪んだ関係だったけど、俺の人生の中の唯一の安らぎであり平和でした。
愛しています。イルカ先生。
愛しています。貴方が大切でした。イルカ先生。
ごめん、ごめんね。せん……せ。酷いことばかり貴方にしたけど。
これでも愛していたんです。
心から、貴方を愛していたんです。
イルカ先生、俺は貴方を愛しているんです。
先生、先生、イルカ先生!!
*
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
耳障りな音が聞こえる。
波のように絶え間なく。
この音は、嫌いだ。とても不愉快だ。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
この音は、知っている。
忘れようとしても絶対に忘れられない音。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
首をつった父さんを医療班が病院に運んでいった。
父さんが沢山の管で機械に繋がれていくのを、俺は泣きながらみていた。
黒髪の医療忍がスイッチをいれると、機械は恐ろしい唸り声をあげはじめる。
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
父さんの全身が不気味な光に包まれた。
やめろ! やめろ!! やめろ!!
父さんに何をするんだ! やめろ!! やめろ!!!!
「やめろっつ!!!」
「カカシさんっ! 気が付いたんですね。俺が分かりますか!? うみのイルカです。貴方のイルカです!!」
イル……カ? そんなひとはしらない。
とう……さんは? とうさんをたすけなきゃ!
「とうさんに何をするんだっ!!」
「カカシさんっ!?」
先生……? 俺が、先生? どういうこと? とうさんは!?
「サクラ、カカシさんは大丈夫なのか!?」
「はい。意識が戻ったならもう命の心配はありません。当分の間は記憶の錯乱が見られるでしょうけど、それも数日で落ち着くはずです」
「そうか」
「でも無意識に暴れる可能性もありますので、今から睡眠薬を投与します。イルカ先生も今の内に自宅に帰って眠ってください。先生、ずっと寝ないで看病していたでしょう?」
「ああ。でもそんなことはどうだっていい。側にいたいんだよ」
何だ? 真っ白な霧が頭の中に侵食してきた。
急速に音が遠のいてゆく。
いい加減に休まないと……イルカ先生まいっちゃい……
……そうかも……カカシさ……側にいた……
じゃ……私、他の患者さんを……
またなサクラ……ありが……
女の人の声と、柔らかくて優しい男の人の声がまじりあって。
何を言っているのか分からないけれど、嫌な感じはしない。
離れたく……カカシさ……愛……カカシさん……
な……んだっけ。
俺、何を考えていたんだ……っけ。
カカシさ……ん
あぁ。この人に名前を呼ばれると、とても幸せな気持ちになるのは何故だろう。
この人、誰だっけ。イルカ先生って、だれだっけ?
頭の中の靄がどんどんと濃くなって。
イルカせんせ……イルカ……せん……せんせ……
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
………ゥ”イィーーン ゥ”ィイーーン……
目覚めると、視界は白で埋め尽くされていた。
消毒液の臭いと、聞きなれた医療器具の耳障りな音で、ここが病院であると知れる。
とすれば、俺はベッドの上で目覚め、天井を睨み付けているというわけだ。
また、生き延びてしまった。
九死に一生を得た男の感想がコレだとは、俺を必死に救ってくれた医療忍に申し訳ないなと苦笑が漏れる。
戦況はどうなっただろうか。
イルカ先生は、ナルトは、サスケ、サクラ、テンゾウは、木の葉の同胞たちは無事だろうか。
戦える身体ならば、すぐに戦場に戻らなければ。
まずは起き上がって医療忍を呼び、己の身体についての説明を受けなければいけない。
見え方から察するに写輪眼は無事なようだ。四肢の欠損がなければよいが……。
上体を起こしかけたところで、背後からドアが開く音がした。
おそらく医療忍が巡回に来たのだろう。
ありがたい。呼ぶ手間が省けた。
「カカシさんっ!!」
だけど、喜色溢れたその声は、まぎれもないイルカ先生のもので。
俺の心臓が喜びと戸惑いに跳ねる。
「カカシさんっ! 気が付いたんですね」
心底嬉しそうな顔をして俺に駆け寄るイルカ先生。
「せん、せ」
先生の姿に胸が詰まった。
溌剌とした面影はどこにも見られなかった。
土気色の頬はげっそりとこけ、目の下の隈の色は深く、いつもは後れ毛もなくキッチリと結い上げていた髪は、無造作に後ろで束ねられ、後れ毛がやつれた印象を強くしている。
「よかった……。本当に、よかった」
そういって涙ぐむ先生は、どれだけ心が広く優しいのだろう。
先生の人生と矜持を奪い、俺に縛り付けたのに、俺が死ねば自由になれるのに、それでも俺が生きていたことを喜んでくれる。
もう、もういい。
もう充分だ。ありがとう。イルカ先生。もうイルカ先生を自由にしてあげないと。
「イルカ先生?」
「はい」
「俺たち、もう別れましょうか」
自分でも信じられないくらい穏やかな声だった。
心も不思議と凪いでいる。
イルカ先生がくれた、本当の気持ちを大切に抱きしめて、きっとこれからも生きていける。
人を愛するってこういうことだったんだ。
自分のものにしなくても、満たされるということ。
「ええ。そろそろ頃合いでしょうか。ナルトはもう充分に強くなったから。そうお考えなのですね?」
イルカ先生の言葉に目を細めて俺は頷いた。
どこか誇らしげにも見えるイルカ先生の顔。
ナルトを一人前の忍びに育て上げた自負もあるのだろう。
「今までありがとうございました。イルカ先生」
愛しています。いままでも、これからも。
だから、サヨナラ。
「こちらこそ、ありがとうございました。カカシさん」
イルカ先生が幸せそうに笑うから。
こんな顔は初めてみるから。
俺は自分が正しいことをしたのだと確信した。
よかった。
イルカ先生を手放せて、よかった。
「では、カカシさん」
つづくサヨナラの言葉を。
イルカ先生が俺個人にかける最後の言葉を、一字一句たがえずに胸に刻もうと全神経を集中する。
優しい微笑みをたたえたイルカ先生の形のよい唇がひらき、円やかな音が滑りでる。
「今度は俺が言います。カカシさん、俺と付き合ってください」
「え……?」
頭が混乱する。
何を言われているのか分からない。
イルカ先生が俺と付き合うって? なんで?
「どうし……て?」
「そんなの、愛しているからに決まっているじゃないですか」
「嘘だ。あんなに酷いことをしつづけたのに……愛してもらえるわけ、ないじゃない」
「確かにはじまりは最低でしたね。最初は貴方を恨んでいました。貴方が俺と付き合いたいと言ったとき、ナルトの為に利用してやろうと思った。そして実際に貴方の権威を思う存分利用させてもらいました。
おかげでナルトはのびのびと里で暮らすことができました。でも、すぐに気付いたんです。あなたは俺に利用されていることを知っている、と」
先生の告白に黙って耳を傾ける。
「恨みが薄れました。そうしたらまた事実が見えてきた。カカシさんは俺を抱こうとしない。任務帰りで昂っているときでさえ、俺に近寄らなかった。身体を求めないのに、俺に尽くして。俺と一緒にいたいと言って。
それに俺と付き合いはじめてから、いつもイチャパラを持ちあるくようになった。
あれは自戒のためだと自惚れていたのですが、ちがいますか?」
「先生の、おっしゃるとうりです。貴方に触れたくなったとき、自分が貴方に何をしたかを思い返すために、二度と貴方を傷つけずに済むように。そう思って本を持ち歩いていた」
「俺たちが共にすごした時間は決して短くはない。その間貴方はいつも俺に対して誠実でした。だから、いつの間にか貴方のお人柄と自分に向けられる純粋な愛情に、絆されていました。
愛していると言えなかったのは俺の弱さです。カカシさん、貴方を苦しめてごめんなさい。もう一度言います。俺と付き合ってください。一生を共にしてください」
「イ……ルカ」
先生は俺をふんわりと抱きしめて、俺の耳元で「”はい”以外の返事は受け付けません」と言った。
→エンディング カカシ編
→エンディング イルカ編
÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷
\担当クイズの答/
↓
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【J】mogoさん
でした!
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